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――『昭和63年2月3日 御堂楓ここに記す』
たった一行だけが、黄ばんだ一枚目のど真ん中に書かれていた。
「綺麗な字。お母さんの字でもおじいちゃんおばあちゃんの字でもない。これ、手記だ……。昭和って……、えーと、今は2020年だから……」
スマホで計算する。
昭和63年は1988年。2020年から引くと32年。
エミリーは22歳である。
「書かれたのは私が生まれる10年前。お母さんは、当時21か22。私と同じぐらいね」
大学卒業後に渡英した母は、パブで知り合ったアイルランド系イギリス人の父と30歳で結婚したと聞いている。
酔うと、よく、若かった父がいかに格好良かったかと力説するので、しっかり覚えている。
この手記の書き手がこの部屋で血を流した人なのだろう。
「だけど、楓って誰だろう? あ、さっきの家系図を見ればいいか」
バッグから家系図を取り出して探したがいなかった。
「なんで?」
御堂家の家で見つけた御堂楓の手記。この家と無関係なはずないのに、名前がない。
楓という名も今まで一度も聞いたことがない。
「あ、そうか。だからこの家系図は新しいんだ」
楓という人が亡くなった後に作り直したのだろう。
その目的は、楓の存在を家族の歴史から消すため。
「御堂家には、何か人に言えない秘密があったの? この人は一体何をしたの?」
祖父母も母も堅く口を閉ざし、存在を家系図から消すほどの何かが楓という人の身に起きたか、もしくは不祥事を起こした。
隠された御堂家の真実に興味が出たエミリーは、手記を読めば何か分かるはずと考えて一頁めくった。
――『この手記は、アカダルマの呪いについて、後世に広く伝えるために書きました』
理解し難い書き出しから始まった。
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