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「あの……、もう一度聞かせて貰えますか? 青天目才舵先生のお子さん?」
「そうです。青天目才賀博士です。今はM大学で教鞭を取られています。名字がとても珍しい上に、名前も一文字違いだから、名前を聞いて、ああ、青天目先生の忘れ形見のお子さんだなと、すぐにピンときました。同じ職業を選ぶのだから、カエルの子はカエルですね。先生が亡くなった当時は幼かった子が、大人になってご立派になられて、先生もあの世で喜んでおられるでしょう」
上垣は嬉しそうに話したが、エミリーにはとても共感できなかった。
「え……と、青天目才舵先生って、結婚されていたんですか?」
「ええ」
絶望的なほど大きく頷く。
「……そうでしたか。でも、喪主はお母様だったと言われましたよね。奥様じゃなかったんですか?」
「離婚されたとかで、そうなったのでしょう」
「ああ、離婚……、そうでしたか……」
それを聞いて心からホッとした。
楓を騙して付き合っていたとしたら許せなかったが、付き合っていた時には離婚していたのなら、何の問題もない。
「ぜひその息子さんに会ってみたいですね」
エミリーは、青天目才賀の連絡先を聞くと、M大学に行って会ってみることにした。
アカダルマの呪いも気になるが、どんな人だろうかと、青天目才舵の息子への興味がとても沸いた。
教えられたM大学は、都心から特急電車で30分ほどの位置にあった。
駅から10分ほど歩いて到着した。
「この大学ね」
ここも解放されたキャンパスで誰でも入れた。
郊外のキャンパスは、都心では考えられないほど広大さだった。
「うわあ、広い!」
広いだけではない。研究に専念できる静かで充実した環境であった。
芝生を敷き詰めた緑地。
池があり、噴水があり、丘があり、樹木を植えた自然の中に校舎が点在する贅沢な使い方をしている。
お洒落な外観の学食もある。メニューも充実している。
受付で青天目才賀を呼び出した。
アポはないが、K大学の紹介だと名前を出すとすんなり通してくれた。
しばらく待つと、青天目才舵によく似た爽やかな男がやってきた。
「私が青天目才賀です」
青天目才賀を見たエミリーは、一瞬で恋に落ちた。
年齢も当時の彼に近い。エミリーは楓の立場に近い。
青天目才舵に生き写しの才賀を見て、まるで自分の中に楓の魂が入り込んだかのように、ときめいてしまった。
(ああ、そうか、こうやってアント楓は好きになったのね)
それはきっと、肩書とか外見とかではなく、彼の持つ匂いがピタリと嗜好と合ったとしか思えなかった。
彼の素性を知らなくても、絶対好きになっていたと自信を持って言える。
「初めまして。エミリー・ファレルです。イギリスから来日して、W大学に留学しています」
「私に聞きたいこととは?」
「お父様のことを調べています」
「父の?」
「民俗学者の青天目才舵博士です」
「……」
見れば見るほどいい男だ。
(胡散臭い男に簡単に引っ掛かって、なんて馬鹿な女だと思ってしまって、ごめんなさい!アント楓は間違っていなかった。こんな男が目の前に現れたら、全力で捕りに行けって、私だって考えるもの)
心の中で楓に謝る。
「あの……」
エミリーは、頭の中で色々考えているのだが、言葉に出さなければ才賀には分からない
黙ってしまったエミリーに困った才賀は、「ここで立ち話もなんでしょうから、場所を変えましょう」と言った。
大学の打ち合わせ用ブースを借りて話すことにした。
「父について、何を聞きたいんですか?」
「私の母は日本人です。母の妹、つまり、私から見ると叔母さんにあたる御堂楓のことで調べて行くうちに、青天目才舵先生にたどり着きました」
「そうですか」
「おばあ様の路子さんはご存命ですか?」
才賀は驚いた。
「祖母のことも知っているんだ。かなり昔に亡くなっている。私が大学生ぐらいだったから、もう13年になる」
「青天目才舵先生は、生前、四方盆村に伝わるアカダルマの呪いについて調べていたことはご存知でしょうか」
「いや」
「お父様が亡くなった時に遺品を引き取ったと思いますが、それは今どこにありますか? もし可能でしたら、アカダルマの呪いについて集めた資料を見たいのです」
「大学から送ってきた父の遺品なら、父の実家で預かってもらっているはずだ。私も目を通したいと思っているんだが、膨大な量と、忙しい身で先延ばしにしてきて、いまだに手付かずでいる」
「いい機会です。一緒に見ませんか?」
お願いしたというよりも、半ば強引に持っていった。
「ああ……、じゃあ行きましょうか」
才賀は、無理な願いを聞いてくれた。
エミリーを青天目才舵の家に連れて行った。
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