腕枕

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「ねえ、イサ」 「なに」 「あたし、本当は帰りたくないんだ。お正月もここにいたい」 「なんで」  ジュンちゃんがむきかけのみかんを置いた。 「みんなあたしのうわべしか見てない。パパもママも、学校の人たちも」  俺もみかんを置いた。 「こんなこと人に言えないし、女子の前では絶対に言えないけど、あたしは、美人だしスタイルもいい。でも、これはあたしの実力じゃないわけ。たまたまこういうふうに生まれただけなの。わかる?」 「うん」  ジュンちゃんは真剣な顔をしていた。こんなジュンちゃんははじめてだ。 「見た目じゃなくて、あたしが何を考えて、何をがんばってて、何を大切にして、何に悩んでるのか、そういうことを気にしてほしいの」  それはわかる。俺だってそうしてほしい。 「美人だからモテる。なんでも思うとおりになる。女優、モデル、アナウンサー、何にでもなれる。良いところにお嫁にいける――そういうのはもう、うんざり」 「ジュンちゃんにも悩みがあるんだ」 「あるわよ。あるに決まってるでしょ。人の気持ちがわからない。言わなくてもいいことを言っちゃう。わがままで、飽きっぽくて、女子の友だちがいない――わかってるのよ。なおさなきゃいけない、ガマンしなけりゃいけないって」 「でも、やっちゃうんだ」 「そう」 さみしそうにうなずいて、ジュンちゃんは口をむすんだ。
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