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やんやと騒ぐ3人を見ながら、環菜は小さく息をついた。
やるなら、やりたくなきゃ。
時間は1度しか来ない。
やりたい時にやらないで、やりたくないのに、やって。
その先に生まれるものこそ、後悔だ。
環菜の胸の奥がチクリと痛んだ。
なんて、私も人のこと言えないけどね。
高校生に戻って、久しぶりにドラムを叩いた。
大学時代も、サークルに入ってバンドをやっていた。
就職してからは、パタリとやめてしまった。
特に理由はない。
強いて言えば、時間を上手く捻出できなかったことだろうか。
現実の人生は、物語の世界のように特別な出来事ばかりじゃない。
ほとんどが、何となくで過ぎ去っていく。
あんなに好きだったドラムを、何故やめたのか、自分でもよくわからない。
「私は……後悔する資格すらないんだな」
声には出さず、口の中でそっと言葉を転がす。
なのに、ライブが終わってからずっと、胸にすきま風が吹いている。
環菜がその理由に気づくのは、もう少し先の話。
この日のヒトコト日記には、こう書かれている。
好きなことなのに、少し寂しい。
好きだから、寂しいんだろうか。
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