世界が広がった日

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「まだ、明るいね」  ライブハウスの外に出て、環菜は思わず言った。 「もうすぐ夏至だから」 と飯田が返した。  夢のような場から一転、外の現実はひどく冷めて見えた。  いつもと変わらない世界。  無表情で足早に歩く人、どこかを走る電車の音。この街では、今も誰かが仕事をしている。  居酒屋で散々飲んで、店から出たら急に酔った自分を自覚する、あの感覚に似ている。環菜はそう思った。 「行こうか」 と飯田が言った。 「あ、うん」  4人は、いつもの並びになって、道を歩き始めた。 「いやあ、すごかったな」  宇野が楽しそうに言った。 「てか、みんな上手すぎるって」 「だろ?」  飯田が嬉しそうに言った。 「あれでプロじゃないんだもん、不思議だよなあ」 「え、プロじゃないの?」 「1本で食っている人はいないよ。音楽やりながら、別の仕事してるって人がほとんど」 「わあ……」  宇野が空を仰いだ。 「上には上がいるってか」 「でも、おかげですごく楽しかったよ」  後ろの悠希が、しっかりした声で言った。 「今日、一緒に楽しめてよかった」  それから、はにかんだように笑う。 「なんか、家帰って弾きたくなっちゃった」  飯田が、後ろを振り返った。 「うん、俺も」  そして、環菜と目が合った。 ――大成功! 「私も家帰ったら、叩きたい!」 「いや、家にドラムセットないじゃん」 「エアドラムやるんだよ、ひざをペチペチ叩くの」 「ももが赤くなっちゃうやつだ」 「そうそう」 「じゃあ、俺も家帰ったら弾く!」  宇野がピッと手を挙げた。 「じゃあってなんだよ、じゃあって」  隣の飯田に小突かれる。 「さっきの曲、もう1回やりたいんだよ」 「ね! あれ、かっこよかったよね」  後ろの悠希が、会話に入っていく。
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