ヒトコト日記~18歳の環菜より~

5/6

13人が本棚に入れています
本棚に追加
/77ページ
「ん?」  スマホとにらめっこをしていた環菜が、顔を上げた。 「何かおっしゃいました?」 「難しい顔してスマホ見てるから、どうしたのかと思って」 「あー……いや、」  環菜はスマホを伏せて、少し考えた。 「最近ね、日記をつけ始めたんだけど」 「日記?」  璃子と悠希がそろって声を上げた。  次のクリームパンに取りかかり始めた清香も、口を動かしたまま驚いている。 「意外」 と悠希が言った。 「環菜、そういう毎日コツコツやるようなの苦手だと思ってたけど」 「うん、まあ。そうなのよ」  否定できないところが、やや悲しい。 「だから、日記と言ってもひとことだけ。何でもいいの」 「ひとことかあ……それなら、面倒くさくなさそう」 「題して、『ヒトコト日記』」  環菜はピッと人差し指を立てて、得意げに言い切った。 「何でカタカナなの?」 「うーん……何となく。ヒトのコトの日記という意味もこめて」 「わかるようなわからないような……」  面倒なのは、どうやら環菜の思考だけのようだ。 「だけどさ、また何で日記なんか始めようと思ったの?」 と清香が尋ねた。  それはつまり、クリームパンを完食したことも意味している。 「ほら、今年で高校も卒業でしょ。何か……残しておきたくてさ」  環菜は小さく笑った。 「人って自分で思ってるより、忘れちゃうんだよね。楽しかったことも、悲しかったことも」  清香と悠希が不思議そうな顔で、環菜を見ている。  1人、璃子だけがじっと机を見つめていた。 「全部覚えてるってのは無理があるけどさ、ひとことだけでも言葉を残しておけば、そんなこともあったなって思い出せる――と思うんだ」
/77ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加