ヒトコト日記~28歳の環菜より~

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ヒトコト日記~28歳の環菜より~

 環菜が住む単身者向けのマンション。  窓の外はすっかり真っ暗だ。  18歳に戻った環菜だが、実家住まいに戻ったわけではない。  元々住んでいたマンションにそのまま住み続けている。  では、家賃や生活費はどこから出ているのか?  何と、実験を行った神様持ちである。  およそ、実験費用といったところか。  現在、環菜は仕事もせずに学校に通い、一人暮らしをするという、世の社会人から見たら夢のような生活を送っているのだ。  チーン、と電子レンジがなった。 「お、終わった」  環菜は扉を開けて、中の焼き鳥に手を伸ばした。  学校帰りのスーパーで、制服のまま買ってきたのである。 「あち、あちち……」  素手では触れないほどに熱くなっている。  袖を無理やり引っ張って伸ばし、皿の両端をつまむようにして運んできた。 「温めすぎた」 と環菜は言った。 「いいじゃん、美味しそうだよ」  答えたのは、璃子である。  彼女もまた、優雅な一人暮らし生活を満喫する27歳である。  休日の夜には、たまにこうして環菜の家に来て、2人で酒を楽しんでいる。 「よし、飲もう!」  元気な号令とともに、缶ビールを開ける、プシュッといい音がした。 「乾杯!」 「乾杯!」  ぐいっとビールを飲む。  パクっと焼き鳥を食べる。 「美味しい!」 「幸せ!」  ほうっと息をつけば、ゆったりした時間が流れる。  ここは高校生のフリをする必要のない、2人が大人に戻れる場だ。
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