13人が本棚に入れています
本棚に追加
「日記ねえ……」
ふいに、璃子がつぶやいた。
「え?」
「上手いこと、考えたね」
キョトン、とする環菜に、璃子は小さく笑ってみせた。
「今が27で、高校3年って言ったらもう10年前でしょ」
と璃子は言った。
「やっぱり忘れてるんだよね、色々」
「そうなんだよ」
環菜も笑いながら、焼き鳥にかぶりつく。
「清香と悠希には、あまり響いてなかったみたいだけど」
「そりゃ、そうでしょ! あの子たちは、本当に18歳なんだから」
「私が18歳の頃に同じこと言われても、何とも思わなかっただろうなあ」
環菜は首を振った。
「でも面倒じゃん、で終わってたと思う」
「私も多分、そうだな」
璃子が同意した。
「高校生活、すごく楽しかったの」
と環菜は言った。
「もちろん、その後の大学も楽しかったし、仕事は――まあ、あんまりだけど」
グイッとビールを飲む。
「こうして、高校生に戻って生活してるとさ、細かいことまで色々思い出すんだよね。そう言えば、こんなことあったって」
「うん」
「楽しかったことだから、自分じゃ覚えてたはずなんだけどね……その瞬間の気持ちと、後からよみがえる思い出ってやっぱり違うんだね」
「そうね……」
「だから、ひとことでいいから書こうって思ったの。それをきっかけに思い出せたらなって」
「うん」
「こう……今の気持ちを瞬間冷凍保存して、何年か後に開けて解凍して思い出すイメージ?」
「ん?」
友人の独特な例えに、素直にうんとは言えない璃子であった。
「わかるようなわからないような……」
「わかってよ」
「微妙な例えするの、やめてくれない? 反応に困る」
「これが適切だと思ったから」
「そうか……?」
首をひねりながら、ビールを飲む璃子であった。
最初のコメントを投稿しよう!