ヒトコト日記~28歳の環菜より~

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「日記ねえ……」  ふいに、璃子がつぶやいた。 「え?」 「上手いこと、考えたね」  キョトン、とする環菜に、璃子は小さく笑ってみせた。 「今が27で、高校3年って言ったらもう10年前でしょ」 と璃子は言った。 「やっぱり忘れてるんだよね、色々」 「そうなんだよ」  環菜も笑いながら、焼き鳥にかぶりつく。 「清香と悠希には、あまり響いてなかったみたいだけど」 「そりゃ、そうでしょ! あの子たちは、本当に18歳なんだから」 「私が18歳の頃に同じこと言われても、何とも思わなかっただろうなあ」  環菜は首を振った。 「でも面倒じゃん、で終わってたと思う」 「私も多分、そうだな」  璃子が同意した。 「高校生活、すごく楽しかったの」 と環菜は言った。 「もちろん、その後の大学も楽しかったし、仕事は――まあ、あんまりだけど」  グイッとビールを飲む。 「こうして、高校生に戻って生活してるとさ、細かいことまで色々思い出すんだよね。そう言えば、こんなことあったって」 「うん」 「楽しかったことだから、自分じゃ覚えてたはずなんだけどね……その瞬間の気持ちと、後からよみがえる思い出ってやっぱり違うんだね」 「そうね……」 「だから、ひとことでいいから書こうって思ったの。それをきっかけに思い出せたらなって」 「うん」 「こう……今の気持ちを瞬間冷凍保存して、何年か後に開けて解凍して思い出すイメージ?」 「ん?」  友人の独特な例えに、素直にうんとは言えない璃子であった。 「わかるようなわからないような……」 「わかってよ」 「微妙な例えするの、やめてくれない? 反応に困る」 「これが適切だと思ったから」 「そうか……?」  首をひねりながら、ビールを飲む璃子であった。
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