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イサー、イサーと犬を呼ぶみたいに俺を呼ぶ母親の声に気づいたのは、朝飯を食って冬休みのドリルの二ページを開いたときだった。冬休みはあと三日。ドリルはあと二十八ページ。そろそろヒロといっしょにオリの家に行く時期だ。
カズはたぶんもう写させてもらって、適当にまちがいを入れてるはずだ。こういうことにかけちゃカズは天才だ。俺とヒロが先生にバレたとしても、カズにかぎってそういうことはない。
俺は気のない返事をして茶の間に向かった。
「電話なんだから早く来なよ」
母親が言った。電話なら電話と言ってくれよ、とは言わなかった。言っても無駄だということは学習済みだ。
「だれから」
「神蔵のテルコさん」
「テルおばちゃん?」
「そう」
おばちゃんと電話で話すのは、おばちゃんちに行く前と帰ってきてからくらいだったし、かけるのはいつも俺からだった。忘れ物でもしたかと思いながら受話器を受け取った。
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