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「もしもし」
「もしもし、イサかい」
声の様子がいつもとちがう。
「はい。俺、忘れ物でもした?」
「ちがうんだよ、イサ。ジュンちゃんが来てるんだよ」
「えっ?だって三十日に帰ったよね」
おばちゃんとバス停まで見送っている。
「そうなんだけど、きのうまた来たんだよ」
「なんで?」
「それがよくわかんないんだよ」
と言って、おばちゃんは急にヒソヒソ声になった。
「お家に電話したら、あちらのおばあちゃんが出て、お父さんもお母さんも出張中ですぐには行けないから、しばらく置いといてほしいって言うんだよ」
「へえぇ」
「預かるのはいいんだけど、あの子、うちに来るって言わないで出てきちゃったみたいなんだよ」
「家出?」
言ってから俺はあたりを見回した。人の話に首は突っ込まない――というか関心がない母親だけど、家出と聞いたらさすがにだまっていないだろう。が、母親はいなかった。俺はふぅと息をついて受話器をにぎり直した。
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