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暮れの二十九日だ。ひょんな成り行きでジュンちゃんを腕枕した。ドキドキなんてもんじゃなかった。
「宿題とか、学校の準備とかあるし」
言って、しまったと思った。テルおばちゃんからジュンちゃんがあまり学校に行ってないって聞いたばかりなのに――学校って言っちゃった。アライ先生がそういう人にはあまり学校のことは話すなと言ってたのに。案の定、ジュンちゃんはいつものようにたたみかけて来ない。
「ジュンちゃん――」
ごめんと言いかけたところにジュンちゃんの声がかさなった。
「なんで帰っちゃったのよ。話がしたかったんだぞ」
声はすこし細くなっていた。
「話って?」
俺はたずねた。学校のことには戻らないことにした。
「ねえイサ、こういうときはまず『俺も会いたかった』とか『ぼくも声が聞きたかった』とか言うの。ぶっきらぼうに『話って?』なんて、そんなんじゃ女子にモテないぞ」
毒舌は相変わらずだ。でも声がちがう。やっぱり家出してきてるからなんだろうか。俺も、こんな家になんかいたくない、出てってやる!と何度も思ってきた。でも、いざとなると怖くてできなかった。それをジュンちゃんはやってしまった。それだけ嫌なことがあったんだ。
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