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「大丈夫なの、ジュンちゃん?」
「大丈夫なわけないでしょう。ねぼけたこと言わないでよ。家出してきてるのよ、あたし」
「そうだよね、ごめん」
「ごめんって、なんでイサがあやまるわけ。あやまらないでよ。あたしが家出してきたこととイサは関係ないんだから。そうでしょ」
怒ってるのに、苦しそうだった。
「イサがいたらいいなって思っただけなんだから」
「ごめん」
「だからあやまらないで!」
いきなり怒鳴られた。鼓膜が破れるかと思った。
「ふつうに話してよ。言いたいこと言ってよ。腫れ物に触るようにしないで。あたしをいないことにしないで。みんな大嫌い!」
言ったきり、ジュンちゃんの声が途切れた。そして変に荒い息が聞こえてきた。
「ジュンちゃん」
俺は呼んだ。
「ジュンちゃん、どうしたの」
返事はなかった。代わりに、どうしたのジュンちゃん!とおばちゃんのあわてた声が聞こえてきた。
「イサごめんね。ジュンちゃん、ちょっと苦しいんだわ」
おばちゃんが言った。電話台の前でジュンちゃんはおばちゃんに抱かれて――泣いてるのか。
「おばちゃん、ジュンちゃん大丈夫?」
「大丈夫。落ち着けば元にもどるよ」
「そう」
「じゃあ、切るからね。わるかったね、イサ」
おばちゃんはあわてたまま電話を切った。
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