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部屋にもどっても俺の頭はまだおばちゃんちの茶の間にいた。
――なんで家出なんかしたんだ。
――いったい何があったんだ。
――だいじょうぶかな、ジュンちゃん。
誰もいない茶の間に俺の心配がうずになって膨らんでいった。居ても立ってもいられなくなって、机の上の時計を見た。まだ十時前だ。財布を開けた。行って帰ってくるだけはある。お土産は買えないけど、しかたない。
親父の部屋に行って時刻表を開いた。いつもの電車はもう間に合わない。あっちこっちめくって、次の電車に乗れば暗くなる前におばちゃんちに着けることがわかった。
親には忘れ物を取りに行ってくると言えばいい。何をと聞かれたら、おばちゃんにもらったマフラーだと言おう。わざわざ取りに行かなくてもと言われたら、俺には大切なんだと言う。そしておじちゃんのマフラーをもらってくればいい。
財布と、きのう思い切ってお年玉で買ったトランジスタラジオ―これを買わなければお土産のお菓子が買えた――と下着と靴下をリュックに突っ込んで、母親を探した。母親は自分で工房と呼んでいる部屋――俺から見れば布切れと毛糸だらけのガラクタ部屋だ――で編み物をしていた。
「おばちゃんちに忘れ物取りに行ってくる。あしたかあさって帰って来る」
「そう。気をつけてね」
あっさりしたものだ。今日ばかりは母親の性格に感謝だ。
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