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窓の景色が流れていく。
――行ってどうするんだ。
――俺に何ができる。
――あんなに怒らせて会ってもらえるのか。
――ジュンちゃんだけでも大変なのに、俺まで行ったらテルおばちゃんに迷惑だろうが。
電車のあったかい椅子に座ってじっとしていると弱気な考えが次々と襲ってきた。なんだよちくしょう、黙ってろよ、とののしっても弱気の声は消えて行かなかった。
――次は小滝、小滝――とアナウンスが流れた。小滝からなら四十分も歩けば笹和駅に着く。
「やっぱ、帰るか……」
つぶやいたとき、ジュンちゃんのさみしそうな顔が浮かんだ。あたしには女子の友だちがいない、と言ったときのさみしそうな顔。女子のことはよくわからないけど、それは俺にとってのオリとか、ヒロとか、カズとか、エイちゃんとか、ユウとか、トシがいないようなものかもしれない……。
俺は切符をたしかめた。
友だちじゃないし、カノジョでもないけど、ジュンちゃんは、やっぱり俺にとって特別の大事な人だ。
帰れと言われたら帰ってくればいい。友だちじゃなくても、カレシじゃなくても、文句を言われるだけでもなんでもいい――少しのあいだジュンちゃんの近くにいよう。近くにいてジュンちゃんと話をしよう。
それが今の俺の答えだ。
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