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来た早々に僕はヤツに思いきり抱き締められた。
いや、抱き締めるなんてロマンチックな表現は誤解を招くので訂正しよう。
僕はヤツに、思いきり羽交い絞めされた。
side:呼び出された男
今日はツイていなかった。
ただでさえ大事な打ち合わせで前の夜から少し気が張っていたのに、朝から電車は遅れるし、昼飯も仕事が押してお預けになった。
おまけに帰り際、書類の整理に時間がかかり残業、そしてやっと家に帰りようやくこの一日が終わろうとしていた夜。
もう後は寝るばかりだという所で最後の災難がやってきた。
「は?え、・・・?」
「頼む。とにかく早く来てくれ」
かかってきた電話は幼馴染で、今日の愚痴でも聞いてもらおうかと軽はずみに出た事を後悔した。
小学生の頃から変わらない相変わらずの大きな声が感情表現の豊かな事も相まってとても慌てている。
別段それは珍しくなかったがその原因がアイツだと言うのは長年の中でも稀なものだった。
酔っぱらって動けない。らしいもう一人の幼馴染。
何をどうしても頑として動こうとせず何かをぶつぶつ呟いてると、今の状況を事細かに説明して最後に助けてと弱々しい声で僕に言った。
いつも顔色一つ変えない、酔って取り乱す姿なんて見た事もないヤツが泥酔しているとは信じがたかったが、助けを求める悲痛な声は確かに真実味を帯びている。
アイツは何をしてるんだ。
ここでどうこう出来る訳もなく、とりあえず携帯に送られてきた店を確認して部屋を出た。
車に乗り込んでエンジンをかける。
社会人になって一年、大学院へ進んだ二人とはなかなか会えなくなっていた。
大学時代にバイトして買った中古車は自分が乗った分も合わせるともう随分と距離数が増えていてエンジン音が少しおかしい。
電車通勤だし駐車場代も浮くしそろそろ処分しようと思っていたのに。
それにしても何でそんなに酔っ払ったんだ?
っていうか慌てて出て来たから気にしてなかったけどこの格好で会うのか?
2ヶ月ぶりだぞ?
ジャージ姿なんていくらでも見られているとはいえ、
しかしそんな心配をする必要は皆無だった。
着いた時にはヤツの目は完全に据わっていた。
そして虚ろな目で僕を見つけるとそのままがばりと後ろからホールドした。
久しぶりに会う事に少しでも緊張した自分が馬鹿らしかった。
何とか離れようと力を入れてもびくともしない。
研究ばかりだと嘆いていたくせにどうしてこんなに鍛えてるんだ。
何だこれ。
何なんだ。
・・・・・何なんだよこれは!!!
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