王女は、勇者と結婚するもの

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「まずいまずいまずいまずいっ」  自分が異世界転生者だと自覚したのは、今朝。 入浴中のことだ。 人間の脳というのは、お風呂やトイレなど安心できる場所でアイディアが浮かぶらしいが、まさか自分の前世を思い出すことになろうとはアレンディスは夢にも思っていなかった。  しかも、まさか前世の性別が男性とは。  それまでは、第一王女アレンディスとして何の疑問も抱くことなく日々を過ごしていた。  美しい王城、煌びやかな衣装、恵まれた容姿。 将来は、素敵な勇者さまが魔王を倒して私を迎えに来てくれるの♡などと、まだ見ぬ勇者さまに淡い恋心まで抱いていたのに。  思い出した瞬間、悪寒が走り、濡れた髪もそこそこにアレンディスは止める召使い達を振り払い、大慌てで神殿へ駆け込んだ。  魔王出現のお告げは、この神殿にある女神像がその瞳から血の涙を流すことで下されるからである。 「まだ見ぬ勇者さまに恋心っ!? ものすごーく嫌な奴かもしれないし、ブサイクかもしれないし、イビキがうるさいかもしれないし、体臭だってヤバイかもしれない。 だいたい、若いとも限らないじゃないか!」  静寂に包まれた神聖な神殿にアレンディスの悪態が木霊した。空気が清浄なので、通常よりも音が響きやすいのだ。  高く吹き抜けた天井も水面のように透き通った水晶の床も、この神殿の全ての領域に女神の加護が施されている。  大陸の南に位置するエリスフィア王国は、この女神エリスを信仰し、女神から与えられる豊穣の恵みを享受してきた。 全ての国民が女神に祈りを捧げられるようにと、初代エリスフィア王が神殿を開放して以来、この女神の間の扉は閉じたことがない。 「だいたい魔王も魔王だ。 なんで、お行儀よくキッカリ100年ごとに勇者に倒されるために生まれてく……あ、ああああーーーーっっ!!!?」  ああ、運命とはなんて残酷なのだろう。  アレンディスは、血の涙を流す女神像を恨めしげに見上げて、その場に崩れ落ちた。  異世界転生者としての記憶が戻るにしても、もう少し早く戻ってくれれば対策も打てただろうに。これなら何も思い出さずに、あたまお花畑のままの方がよかった。 「お願いです。どうかお慈悲を。 男と、結婚なんて、無理……っ!」    絶望に打ちひしがれていると、背後から何者かの足音が聞こえた。
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