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3.未来の音なぞる再生
少年が恐怖した音。母親によって防音された眠り。少年はその隙間で目を醒ました。そっと母の手をどかして、少年は夜の音を聴いたのだ。母親の手と、壁の単語を見比べて、メリーゴーランドの特異日が回り始める。
痛い。
それは少年にとって痛み、であった。
澄んだ聴力が擦るもの。
音の痛みでできた溝をさらに擦っていく。
少年は二つの選択肢をリボルバーに詰めて回転させる。
過去か、未来か。
音で築いたこれまでの景色、これまでの経験。味、音楽、みたことのない映画、聞いたことのないラジオ。
わけのわからない未来。だけど、地獄の全部をつぎ込んでひっくり返せるかもしれない未来。
どちらの痛みをなぞれば音が鳴るだろう。どちらの音を聴いていたいだろう。
少年は未来を選んだ。
リボルバーが歓喜に回転を止めない。
壁の文字が全て消える。
時間が消失して、少年の旅が始まる。
早打つ鼓動、襲ってくる不安感。振り払った母の掌に、付着していた赤い命のボロギレ。
切断パイプから滴る水音、密集した狭い空の配分から落下した人々の呻き声、喘ぐ女、泣く男、カラスの嘴は腐肉を粘着させ、猫は潰れかけた声帯でさかり、犬は吠えた。共吠えする犬たちはわけも知らずに、吠え続ける。吠えることさえできない者は、代わりに何をすればいい。
少年は夢をみていたのかもしれない。
しぼみきった夢をため息ではなく、未来で膨らませていたのかもしれない。
母親の掌、その向こうにあった世界は、少年を痛めつけ苛み、そして夢をみさせた。
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