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5.マイナスの報奨金
少年は愛馬を店の外に繋いで待たせると、酒場に入った。カウンターで褐色透けるグラスが出される。「ウィスキー」と注文するとお化けリュウゼツランがカウンターのちょび髭とダンスを踊ってグラスに体液を注いでくれる。「お前の体液はテキーラだぞ」少年の発した言葉が祓いの呪文になってお化けは消える。ウィスキーと壁に貼られた懸賞首が残った。
「報奨金がマイナスってのはどういうわけだい?」
中の一枚に、はみ出した0がケタケタ笑う店内に、一点マイナスが発光キノコしている。
「よく首をみなよ」
いつの間にかカウンターの隣に座った男が言った。
「あいつは神だ」
「なんだって? 神様が懸賞首? それこそどういうわけだい」
「だから報奨金がマイナスなんじゃないか、めったらに神をみつけるなってことさ」
――なるほどね。
あおったグラスの酒。味が埃臭い。再生される夢はまだ音と幻のまま。味は自前の現実。ゆらり、少年のみる夢が、唄う。蝋燭の炎揺れて、唄う。
「バスが来ているよ」母親の声だ。血色のいい顔でフライパンを振るっていた。
「うん」
少年は清潔な布団に仰向けで寝ている。天井は少年の視力で抜けて太陽の光が燦々とうちの中を日向ぼっこさせた。
「乗らないのかい?」
「乗らない」
あのバス。
――乗ったら僕なんか一駅ももたない。
頑丈な銀色がくすんだ車体、排気口から昨日の残骸が漏れているバス。子供のいるうちを回るバスは、町を出るゲートに到着した時、バスの中に立っていた一人だけを町の外に出すという。
「お前の幼馴染は5年前に出て行ったっけ」
――マイナスの報奨金を受け取ったんだって?
「いや、外の町で働いて、親御さんに仕送りしてるってさ」
――マイナスの金を?
少年の夢に町が再生される。夢の材料は全部町の音だった。
「そんなことはない、この町に波の音があるもんか」
少年は浜辺で瓶を拾った。
妖精が閉じ込められていた。瓶の中で背中の羽を秒殺しに動かして、ウィンクの跳弾に自分で酔っぱらっていた。
「餌を与えることが出来そうもない」と、少年は瓶を波の向こうに放り投げる。ピッチャーマウンドで、歓声を受けた。ホームランは火星の黒子になって、バットは自由の女神に気に入られる。
女神はフルスイングで瓶を砕き、神が破片で鬼ごっこをしている。少年は神の一人でもあった。
――母さん。
少年の胸に、寝返りで乱れた母親の手が乗る。自分の耳を塞がない手は、少年にとって遠くみえた。
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