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6.こし餡ルーレット
クルクル、回転を続けるレコード。メリーゴーランド。町を走る少年、景色はクルクルと路地裏がガラガラと軋んで。リボルバー。
――まただ。またこれだ。
少年が乗れなかったバス。
怖がってしまった町の音。
クロスワードパズルの言葉。
町の声が、夢に混じる。少年が一番、恐れた音。耳を塞ごう。そして夢をみずに眠ろう。未来を消して眠ろう。
「ダメだ、もう遅い」
もう遅い。
少年は未来を再生してしまった。
楽しい夢をみてしまった。
――ロシアンルーレットだ。
――バスに乗れなかった弱ガキの使い道だ。
――祭りに必要なんだ。
――弾の数で貰える額が倍々になるんだと。
――この世にバイバイするかもしれねーのにな。
――ぎゃはははははははは。
――あー、そのためにも一人こさえるか。
――元気だねぇ。
これは夢なのだと、少年は瓶の中から太陽に叫んでいる。背中で死んだ秒が時間になれずに腐っても、卵はヒヨコを産まない。母親がお皿に二人の好物を六個円形に置いて、戯れにお皿を回転させる。
――こし餡ルーレットよ。こし餡のは高いの。中に一個だけあるわ。
――よーし、僕がもらうよ。
あれも、夢なのだと、少年は自分の手で耳を塞いでいる。ドクドクと脈がうるさく、目を開くと壁に、文字がみえた。メリーゴーランド、特異日、メヌエット、まんじゅう、ロシアンルーレット。
神様。お願いします。
マイナスの報奨金を、僕に下さい。
母さん。
壁の言葉を全部消そうよ。
書いちゃ勿体ない壁のあるうちに住もうよ。
少年は立ちあがった。
音が、気にならない。
からっぽのバスがさっきうちの前を過ぎていった。
少年を乗せてくれるバス。
祭り会場へ連れてってくれるバス。
母親の寝息が、少年をアダムとイヴがリンゴをかじるまでに見つめ合った時間だけ、躊躇わせた。
少年は壁に言葉を探した。
少年のみつけだしたい言葉は、壁の何処にもなかった。
少年はうちを出ると、バスを追いかけて走った。
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