第一話 唐突の別れ

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第一話 唐突の別れ

   【一】  真由子は天を仰いだ。雲一つない澄み渡る蒼天に、吐き出す息が白く煙る。  虚無感と後悔、悲壮と憤怒をごちゃ混ぜにしてミキサーにかけたみたいに、どこにもやり場のない感情の塊が胸の奥に渦巻いている。淡いブルーの水彩画のような空は、彼女には皮肉に映った。 「……呆気なく、逝っちゃうんだもんなぁ」  溜息と共に吐き出すように呟く。先程灰になった真由子の父親の骨は、通常よりもとても多かったそうだ。元々、頑丈だったのだろう。肺以外は。  真由子はぼんやりと過去を振り返った。  父親が調子を崩して入退院を繰り返すようになったのは、今から八年ほど前だろうか。母親からの何の変哲もない定期的な電話での会話で、サラリと伝えられただけだった。ギョッとして、大丈夫なのか問いかけたが、「大した事ないから真由子には話すな」と父親自身が言っていたそうだ。そしてその言葉通り、医者もビックリするほどの回復力を見せ、数日で退院。日常生活に戻ったという。  その時ふと、『孝行のしたい時分に親はなし』という故事ことわざが頭に浮かんだ。けれどもすぐに「大丈夫だろう、まだまだ時間はたっぷりある」と思い直したのだった。その頃、真由子は結婚したばかりで少々浮かれていた部分も否めない。都内から隣の県に引っ越し、社員でフルに働いていたところをパートとなり、時間に余裕も出来る。だから何かあればいつでも駆けつけられる、そうタカを括っていたのだ。  それから飛ぶように月日流れた。その間、父親は何度か体調を崩し、入退院を繰り返したがその度に医師の言うところの『奇跡の回復力』を見せたという。  真由子は母親に会いに実家に遊びに行く事は度々あったが、その際に父親に会っても、「久しぶりだな、元気そうで何よりだ」と言ったきり、自分の部屋に引きこもってしまうのだ。さほど私に会いたい訳でもなさそうだ、と真由子は感じた。父親とは特に共通の話題もないから、いざ話そうとしても何をどう話せば良いか分からない。だから父親の反応は、ある意味ホッとしている部分もあった。  真面目なだけが取り柄で、頑固で口下手な父親と会話らしい会話をかわさなくなったのは高校の時以来だろうか。
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