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藍斗のこと
教室についてから藍斗が来るのを待っていたが、なかなか来なかった。
朝礼で担任が藍斗は欠席だと言う。
竹井さんが俺に聞こえる程度の音量で「めずらしいね」とつぶやいた。
一人で昼飯を食べているとクラスメイトの戸田が話かけてきた。
こいつはいつも女子にばかり話しかけるから男子からは浮いている。
彼女のとこで飯食うのが常な男だけど、今日はいつも藍斗が座る席に戸田が座りだした。
俺がその席を黙って見ていると
「お互い相方がいない日は寂しいよな。俺のまきちゃん昨日もお腹痛そうだったんだけど、今日はいよいよ我慢できなかったみたいでさぁー」とベラベラ話しだした。
俺たちは今まで関わったことはほとんどない。
「まきちゃんとか知らないし。」って俺なりに無愛想に言ってみたら
「まきちゃんはさぁ、ちっちゃくてちょっとぷくっとしてるのがめちゃめちゃ可愛いんだよね。」
と続き、結局昼休み中ずっとそのまきちゃんの話を俺は聞かされ続けて「幸ちゃん楽しかったね、またねぇー」って戸田だけ満足して帰って行った。
他にも1人で食ってる奴いるのになんで俺なんだよ。疲れた。
藍斗と仲良くなってから毎日一緒にいたから当たり前になっていたけど、あいつのいない学校はひどく寂しかった。
もしかしたら昨日は藍斗も同じ気持ちになったのかもしれない。
ごめんな、藍斗。
だから俺は戸田が消えてから授業の始まる短い間に先輩へ[放課後お返事したいのでまた実験室で]と連絡をいれた。
学校の後、俺は藍斗の家に向かった。
呼ばれていないけど今日は金曜日で、次に会えるのが月曜日だって思うと待ちきれなかった。
チャイムを鳴らしてしばらくすると、黒いTシャツとジーンズ姿の藍斗が出てきた。
見た感じ具合の悪そうな風でもない。
俺の突然の訪問に驚いているようだけど、落ち着いた声で
「どうかしたか?」と聞いてくる。
目は合わせてくれない。
「とりあえず中入れて!」と俺はちょっと強引に入っていった。
どうせいつも藍斗しかいないんだ。
今日もそうだろう。
部屋まで勝手に来た俺に藍斗は飲み物を用意しようとしたが、俺は「いいから」とソファに藍斗を座らせて自分も横に座る。
重い空気だけどちゃんと話したい。
「藍斗、昨日怒ってただろ?あれ俺が遅かったからじゃないよな?」って切り出してみた。
「たくさん考えたんだ。もし先輩と付き合ったらっていうのも想像した。俺、男だし付き合ってイチャイチャしたりとかもしてみたいって気持ちは正直あるんだけど…
やっぱり藍斗といる方が楽しいかなって思ってさ、だからさっき断ってきたんだ」
藍斗がやっと目線を合わせてくれた。
同時に少し空気が軽くなった気がする。
「幸太郎…それどう受け取ったらいいんだ?」
「んー、つまりよく知らない先輩よりも俺は男の友情の方がずっと大事だと思ったってこと!今まで通り仲良くしてくれよ。」
俺は藍斗の手に俺の手を乗せてギュッと握ってニって笑いかけた。
もし藍斗が俺に彼女ができるのが寂しかったなら、これで喜んでくれると期待していたんだ。
でも藍斗の表情は険しいままだった。
俺と俺に握られた手をゆっくり交互に見て、思考を巡らせている。
数十秒だったのか数分だったのか、この不思議な時間がとても長く感じた。
「あの、俺はそうしたいと思っているけど藍斗はどう思う?」
我慢しきれなくて声をかけてみた。
藍斗は一度目を閉じて、またゆっくりこちらを見た。
それは何かを決意した様な強い眼差しで、俺はその目に捕らえられた様な感覚がした。
「あぁ、俺もお前とずっと一緒にいたいと思ってる」
藍斗が俺を抱きしめてくる。
仲直りできたことが嬉しくて俺は「良かった」って藍斗のこと抱きしめ返した。
これで元通りになれると俺は信じてる。
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