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祭の後
途中で直登たちに会った。というか俺たちが見つけた。
なんせ柔道部は堅いの良いやつの集まりだから目立つ。
そして直登は去年と同じヘタクソに着付けした浴衣で、今年はさらにダサいハットまで合わせてて笑った。
「直登、浴衣はだけ過ぎて警察に捕まるんじゃねーの?」
「か弱い乙女たちがさらわれないように、俺がおっさん達の視線釘付けにしてやってんだよ」
「ご苦労様でーす!!!」
挨拶代わりの冗談を交わし合ったら、直登が俺の背後の藍斗に気づいて「よぉ!」と声をかけた。
藍斗は前みたいに機嫌が悪くなっていない様だけど、今日は何か思案してる様だ。
何が気になっているんだろう?
藍斗は背が高い。
それでいて無表情でじろじろ見下ろすものだから、さすがの柔道部員たちも居心地悪そうだ。
なんとなく察した直登が
「俺たちスマートボール選手権するからこれでな。ちゃんとお前の保護者に守ってもらえよ」
そう言って直登たちとは別れた。
藍斗に「どうかした?」ってきいても「大したことじゃないから」と流された。
その後はたこ焼きやらクレープ食べてお祭りを満喫した。
この後花火もあるんだけど、あまりにも人が多くて俺たちは帰ることに決めた。
歩いててもこの当たりはそんなにビルもないから割と見えるものだ。
人通りの少ない電灯もまばらな道に入る。
ドーンって音がして花火が始まったのがわかった。
花火の音を聞きながら歩いていると藍斗に
「幸太郎」と呼ばれた。
「ん?」
藍斗がグッと俺の手を引いて、よろけた俺は藍斗の胸に収まってしまった。
更に腕でホールドされて動けない。
なんだ!?
顔だけなんとか出して見上げると真剣な顔した藍斗と目があった。
「…幸太郎」
「なに?どうした?」
「俺はお前に見合う様になりたいんだ」
「見合う?」
「そう。お前に選ばれることが俺の望みだから」
「……」
「俺に足りない所があれば言ってほしいんだ。俺は…お前に認めて欲しいんだ。」
そして深くキスをしてきた。
全然余裕がなく必死に俺の舌を追っていた。
俺は舌で応えるのも忘れて藍斗の言葉の意味を追おうとしていた。
何度も繰り返して理解しようとするけど、わからないよ藍斗。
お前に何か足りないなんて思ったことない。
藍斗の顔が離れてく。
もう一度俺をギュッと抱きしめてから、俺の顔に張り付いた髪やら浴衣の襟を直し始めた。
満足いく具合になった所で
「浴衣姿のお前も、すごく綺麗だ。」って微笑んだ。
藍斗、お前が浴衣着た方がよっぽど格好良かったと思うよ。
絶対に似合う。これはもう確信だ。
こんな中途半端な俺なんかよりも、お前はずっと真っ直ぐで綺麗だ。
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