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戸田
また戸田の「幸ちゃん、そろそろ糖分が欲しい頃じゃない?ねっ?ねっ?」の声で俺たちはコンビニに行くことにした。
途中うちのクラスを通った時、藍斗が打ち合わせに来てたのが見えて、声をかけようかと思ったけど、難しい顔で小道具担当やダンス担当の子達と話していたのでやめた。
本当に、見れば見るほど遠く感じてくる。
立ち止まっていたら少し前を歩いてた戸田に振り返って「幸ちゃん?」って呼ばれたから、俺は小走りで戸田に追いついた。
コンビニの帰り、買い物袋を持って歩いていたら、ふいに戸田が話を切り出してきた。
「幸ちゃん、恋してるよね」
「は?」
「相手は蒼井君なんでしょ?」
俺は一瞬頭が真っ白になって凝視してしまったと思う。
戸田はこちらを向いて微笑んでいるけれど、その目がすべて見透かしている様に思えて、誤魔化すのも忘れて目を逸らしてしまう。
黙る俺を確認して戸田は前を向き直してまた話し出す。
「安心して、大丈夫だから。俺が誰かにこの話をすることはないから。彼女にも絶対言わないよ。
ただ傍観してるつもりだったんだけど、なんだか幸ちゃん危うくて心配になっちゃうんだよね」
「…心配?」
「うん。最初はね、蒼井君が幸ちゃんのこと追いかけてるのが面白くて見て楽しんでたんだけどさ。
夏休み前後くらいからかな、幸ちゃんの雰囲気変わってきたのは。悩ましげな感じで、すごく色っぽいんだよね。」
「…俺が…色っぽい?」
「そう、もうだだ漏れ。それが危なっかしくて俺は放っておけなくなっちゃったよ!悪い奴に食べられちゃいそうだもん。」
色っぽいなんて言われたことがない。
男の俺にそんな言葉が当てはまるんだろうか。
そもそも夏休み前から俺たちの関係に気づかれていたなんて…
「俺さ、恋をしてる人ってわかっちゃうんだ。雰囲気もそうなんだけど、恋をしてる人の目ってすごく惹きつけられるんだよ。今の幸ちゃんすごくエロい」
色っぽいの次はエロいかよ…
「…俺はどうしたらいいんだろう…」
口に出すつもりはなかったんだけど、本音が出てた。
これじゃ完全に戸田の話を肯定してしまってる。
でも俺は話に集中していて、肯定するしないはもうどうでも良くなってしまっていた。
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