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教室
それから俺たちは奮発して2ピース売りのケーキを3個買い、6人で満喫したあとお世話になった多目的室を後にした。
戸田はるりちゃんに報告してくると言っていなくなり、女の子たちと俺で教室へ向かうと、ドアぶちに背を預けてる藍斗が目に入った。
藍斗はもっと前から俺に気付いてたのか、ジッとこちらを見ている。
多分だけど、自分の作業をしつつ俺が来るのを待ってたんだと思う。
不機嫌を全開にした藍斗の目線がそう言ってる。
これは戸田がここにいないのは正解だ。
しかしあの場所はなかなか周りの人には迷惑だろう。
ドアぶちで凄んでる男がいる所為で、皆んなもう1つのドアからしか出入りができない。
この忙しい時に文句を言われないのが不思議だ。
俺は藍斗の前まで行き
「さっきは藍斗も来てくれたのにごめん。やっと終わって感激しちゃって…
「幸太郎はここで俺と作業だ。あとの奴は竹井に指示をもらえ」
俺の話は途中で遮られた。
命令の様な冷たい声だ。
俺はこんな藍斗を知らない。
とりあえず女の子たちは竹井さんの所に行き、俺だけそこに残った。
俺が藍斗の何を手助けできるだろう。と思ったが、案の定「わー」「へー」ってもう出来上がったものに、頭の悪そうな単簡を打つことしかできなかった。
それでも俺に細かく説明をしてくれる藍斗の雰囲気が少しづつ柔らかくなっていってる様な気がしたから、その日はずっと一緒に行動した。
次の日から、看板チームは教室で小道具作りに合流して作業した。
藍斗は戸田の話題を聞きたくも無さそうだったけど、改めてあいつのおふざけだったと説明しておいた。
特にあの後戸田と揉めてはいない様だから一安心だ。
ただ作業していると藍斗が頻繁にこちらを気にしているのが気配でわかる。
俺の信用はまだ回復していないのだろうかと思ってしまう。
途中でダンスのリハーサルをしていた子達が、休憩で俺たちが作業をしている近くの床にドテンと座り込んだ。
額から汗を流して息を切らすけど、表情はハツラツしていて楽しんでやっているのがわかる。
「疲れたねー」「かなりいい感じになってきたじゃん」と話してる中で1人が
「今日、蒼井君ピリピリしてないね」とこっそり言った。
周りも「やっと仕上がってきたからかなー」と笑いながら同意する。
え、あの雰囲気で?割と冷たい口調でズバズバ言ってるけれど…
あんまり話したことない子達だけど、不思議に思って聞いてみた。
皆んなにこやかに「高橋君、看板だったもんねー」と言って教えてくれた。
「蒼井君全然笑わないし、淡々と進めてくんだよねー。」
「そうそう。表情変わるって眉間に皺寄せて険しくなる時くらいじゃない?うわっ!やらかしたかなってなる」
「緊張感半端ないよね!ずーっと気を抜けなかった。」
「もう今はさ、慣れたから何言われても大丈夫だけど、男も女も関係なくあれだもん。泣きそうだったよ!」
「もう少し優しかったら、激モテだろうに勿体ない」
皆んなそう口々に言って、小声だけど盛り上がってる。
「嫌じゃなかった?」って聞いたら、顔を見合わせて
「助かったよね?」
「うん、冷たいけど説明はわかりやすかったし。グラフィックもほとんど蒼井君がやったんでしょ?すごいよね。」
「あの緊張感がなかったらもっと適当になってたかも」
と皆んな藍斗のこと嫌ってはいない様で安心した。そして結局
「あんなに整ってるのに表情がなぁー」
って笑って、またリハーサルに戻っていった。
なんだか俺の知ってる藍斗とはギャップがある。
いや…1年の時は俺も無愛想な印象を持っていた様な気がする。
そう思って藍斗を見ると、しっかりあいつと目があった。
いつもと違って俺が観察するみたいにマジマジ見るから、不思議そうな顔で藍斗もまだ目を離さない。
笑顔でなくてもこんな表情すら俺しか知らないのだろうか。
そう思うと優越感みたいなものが俺の胸を温めていった。
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