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 朝あんな態度なのに昼になるといつも通りの藍斗が俺の前に来た。 俺は思い切って、ただ控えめに「朝は低体温なのか?」って聞いた。 「俺の体温がどうかしたか?」 「いや、お前の朝の態度…」 「……」 「……」 藍斗は少し考えて「低血圧の間違いじゃないか?」と答えを自力で出した。 俺は「あっ!」ってなり、恥ずかしくてははは〜って笑ってたら、藍斗もクスクス笑い出すから文句を言うのを忘れてしまった。  藍斗に家に誘われた。 俺は自分で勉強はしてる方だと思うんだけど、要領がよくなくて成績は悪い。 というかこの高校自体奇跡的に合格できた様なもので、常にギリギリだ。 対して藍斗は全教科上位。 俺の特に苦手な数学は担当教員の教え方が藍斗からしてもわかり辛いらしい。 「そうか、1年の時からあいつに教わり続けてるからもう全然分からないのか!」 って言ったら藍斗は笑いながら、じゃあ1年の時のおさらいも含めて全部教えてくれるというのだ。神かよ。 着いた藍斗の家はなかなか大きい。 「おじゃまします」と入った室内は、物があまりないというか人の気配もない。 「家族仕事?」 「母さんはいない。父さんは出張でたまにしか帰ってこないから気を遣うな」 母さんがいないってどういうことだと聞くと、藍斗が生まれてすぐに事故で亡くなっているらしい。 父子家庭ということだ。 どうリアクションしたら良いかわからなくて 「そっかぁ」とだけ言った。 なんでも持っていそうな彼にも、もしかしたら苦労とかがあるのかも知れないな。 俺はまだ藍斗のこと全然知らない。 藍斗の部屋もかなり簡素というか最低限のものしかないという感じだ。 でも家も持ち物も一つ一つに高級感があるから、お金がないというわけではないんだろう。 ゲームとかしなさそう。 ぼーっと部屋を見渡していたら 「どうした?」 と肩を抱かれてびっくりして「へぁっ」って変な声を上げてしまった。 俺の反応にふっと笑って 「普段人呼ばないからテーブルとか準備しとく。興味あったら好きなだけ家の中見てていい」と言われた。 そんなにマジマジ見てしまっていたのかと思ったら恥ずかしくなる。 藍斗の部屋には2人掛けの紺色のソファがあって、その前のテーブルに飲み物が用意された。 ソファでは勉強するのには高さが合わないからと、クッションを床に置いてその上に座る。 勉強机は別にあるが2人で勉強するにはこの方が相談しやすそうだ。 「お菓子とかも用意しておけば良かったな」 「そんなのなくたって教えてもらえるだけで感謝してる」 おれはニコっと笑いかけた。 「来てくれると思わなかったから…俺も感謝してる」 藍斗は少し照れた様に顔を逸らして言った。 意外だな… 「お前に誘われたら男でも女でも誰でも来たくなるんじゃないか?」 「小学生の時に呼んでもいないのに女子が家に来たり、男子でも1人許したら来る時にはぞろぞろ何人かで来たりして嫌になって誰も呼んでなかった。 そもそも学校以外で会いたいと思わない。」 眉間に皺を寄せて心底嫌だったのが伝わってくる。 イケメンあるあるなんだろうな。 別にみんなただ仲良くなりたかっただけなんだろうけど。 藍斗は自分のテリトリー大事にしたいタイプなんだ。 「じゃあ俺はいいの?」 と聞くと藍斗は何か言おうとしたけど、口を押さえて考えだした。 言葉を選んでるんだろうか? かと思えばじっとこちらを見てみたり… 「何この間!!」 って俺が突っ込んだら苦笑いする。 「幸太郎は特別だな。小テストの度にお前頭抱えてたし放っておけないよな」 その通りなんだけど揶揄われてむくれたら、方杖ついた藍斗が片手で俺の癖っ毛の毛先をいじりながら微笑みを浴びせてくる。 男の俺でもこんな顔向けられたら赤くなるじゃんかよ。 「もぅ、藍斗にしても直登にしても人を子供扱いだもんな」 冗談みたいに言ったつもりだったけど藍斗の手が止まって突然表情が消えた。 あれ?どうしたんだろう。 「別に子供扱いしてるわけじゃない。」 そう言って教科書の準備し出した雰囲気はいつかの朝を思い出す。 やっぱり気分屋なんだろうか。 まだまだ藍斗の事はよくわからない。
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