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学校祭
ついに学校祭当日が来た。
俺たち看板チームは交代で受付を担当する。
うちのクラスの見せ物は人気で列ができるほどになった。
俺はあれからもう幾度と見てるのに、音と光とダンスの躍動感は何度観ても圧巻の出来だと思う。
そしてこの後は藍斗と一緒に見て回る約束をしてる。
戸田の藍斗への嫌がらせは幸い俺への影響はそんなになかったのだが、それを戸田に言うと
「いやいや、俺はめっちゃ睨まれる。幸ちゃんと話しに行こうかなぁって動いた瞬間睨まれる。あいつエスパーだと思う。」という。
戸田は完全に藍斗にマークされているらしい。
「幸ちゃん俺怖いよ〜」って言う戸田には笑って
「あれは戸田が悪いから自業自得だ」って言ってやった。
戸田の言ってた俺を隔離したどうこうは、正直俺にとってはどちらでもいい。
藍斗は不器用ながら、いつも俺のことを考えてくれている。
それで許せてしまう自分がいるからしょうがない。
ただ、俺が自分の気持ちと向き合う手助けをしてもらえたという点では、戸田には感謝しなくちゃなって思ってる。
まぁ、それは戸田だしまた今度でいいかな。
藍斗は目立つから一緒に歩いていると、写真だのなんだのよく声をかけられた。
藍斗があんな感じだからさっさとかわして行くけれど、落ち着かないから暗がりでごった返してるステージパフォーマンスを主に楽しんだ。
あんなに長い時間をかけて準備したのに、呆気ないほど時間が進むのは早くて、もう陽も落ちてきてる。
あとはフィナーレの花火で今日も終わる。
藍斗に楽しかったか聞けば
「お前といれたからな」と言う。
そういえば祭りの時もそんな事言ってたな。
「あんまり最近一緒にいれなかったもんな」
「ああ。我慢し過ぎてハゲそうだった」
ぷっ、見たくねー!って俺がゲラゲラ笑ってしまう。
「我慢しててもがんばったじゃん」って偉そうなこと言う俺に
「幸太郎に良いとこ見せたかったのかもな」
と、藍斗が微笑む。
あぁ、もう!
気持ちが込み上げてくる。
俺はつくづく花火と縁がない。
でも今どうしても伝えたいって思った。
外の芝に座っていたけど、俺は立ち上がって藍斗の手を引いた。
「どうした?」と言う藍斗に
「2人きりなりたい」と言えば、藍斗が上手く人集りをすり抜けて校舎の中へ導いてくれた。
教室は人が来るかもしれないから、俺たちは俺が散々作業した、今は全く使われてないあの多目的室に来た。
ここまで上がってくる途中で花火が始まった。
多目的室のドアを閉めた途端に、心臓が耳の中にもあるみたいに鼓動がうるさい。
外にまで聞こえてしまいそうだ。
花火の音の中にいて良かったかもしれない。
「また…花火見逃しちゃったな」
そう笑顔を作って苦し紛れの様に言ってみたけど、声が震えてて自分の緊張を伝えてしまうだけだった。
知らなかった。
人に気持ちを伝える事がこんなに難しいことだなんて。
藍斗は黙ってただ真っ直ぐ俺を見てる。
俺の言葉を待ってくれてる。
伝えたい、どうしても。
でもいざとなると言葉が出なくて藍斗のシャツをギュッと掴んだ。
ふぅって数回息を吐いてやっと伝えられた
「俺も…藍斗のことが好きだ」
見れたはずの花火も見ずに、わざわざ校舎の中に忍びこんで、ろくに藍斗と目も合わせずに言えたのがこんな一言だなんて我ながら情け無い。
もっとちゃんと言葉にしたい。
続けて「ずっと待たせてごめん」と言いかけたら、藍斗の腕が伸びてきてグッと強く抱きしめられた。
俺は「藍斗、俺…」ってまだ足りない言葉を足そうとしたけれど
「ありがとう。」
藍斗は俺の肩に顔をうずめてそう言った。
俺の想いはちゃんと藍斗に伝わった様だ。
だから俺も言葉を紡ぐのはやめて、藍斗の背中に手をまわして抱きしめ返した。
俺たちはそのまま抱き合って、花火が終わるまで光が弾ける音を噛み締めていた。
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