598人が本棚に入れています
本棚に追加
新しい顔
学校祭の振替休日、俺は久しぶりに藍斗の家へ向かった。
天気も良いし、俺の足取りは軽かった。
ベルを鳴らすとすぐに藍斗がドアを開けてくれて、その間をするりと通って中に入ると、抱きしめられて口付けをされる。
ドアが閉まり切る前なのにと思ったけど、俺もここまで会いたい気持ちでいっぱいだったから、藍斗も同じだったのかなって思ったら嬉しさが勝ってしまう。
挨拶にしては少し長いキスを終えて機嫌の良さそうな藍斗の「待ってた」に俺はニシシって顔が綻ぶ。
あの俺の告白から、晴れて俺たちは恋人同士になった。
今までと何が変わったわけではないんだけど、気持ちの面での変化は大きい。
いつもは勉強の為に訪れていたけど、今日は藍斗に会う為だけにここにいる。
そう思うだけで俺ははしゃいでしまっている。
「今日はのんびりすごしたいよな」
そう言って慣れ親しんだ藍斗の部屋のソファを早々陣取って、テレビを付けた。
藍斗も飲み物を用意してくれて、遅れて俺の隣に腰掛ける。
「何見るかなぁ」
と独り言を言いながらチャンネルをポチポチ替えていたら、藍斗にリモコンを奪われてキスされる。
藍斗の手が俺の背中と腰に回された。
撫でる様に動かされて、さり気なくどんどん腰を藍斗の方へ寄せていくものだから意識してしまう。
俺から一度口を離すと、先に藍斗が「ダメか?」とシュンとして俺の顔を覗きこんでくる。
甘えた様なこの顔はずるい。
こいつこんな顔もするんだと感心してしまう。
「嫌ならやめる」
「嫌じゃないけど…まだ明るいから」
「夜なら帰してやれるかわからないぞ?」
そう言って、俺の額やら頬にキスを落としてくる。
「聞いておいてやめる気ないだろ、お前」
「お前に好きって言ってもらえて、そのお前が目の前にいるんだ。夢じゃないか確認したくなる」
「確認できればいいのかよ?」
「現実なら逃げない様に捕まえておきたい」
「どうやって?」
「ずっとここに閉じ込めて、外に興味がなくなるまで甘やかす」
「こえーよ」俺が笑ってたら、藍斗が俺の首のとこに顔を埋めて寂しそうに「なぁ、ダメか?」ってまた聞いてくる。
こんな弱々しい藍斗は俺だけしか知らない。
本当にこんな来て早々に求められるとは思ってなかったんだけど。
まぁ、いいか。
俺も藍斗にはずいぶん甘いよな。
俺は藍斗の頬に手を当てて「いいよ」ってそっとキスをした。
最初のコメントを投稿しよう!