個室

1/1
前へ
/51ページ
次へ

個室

 藍斗には、親から一緒に出かけるから早く帰って来いと言われたと嘘を付いて、俺は学校の後、戸田に言われたカラオケへ向かった。 ドアを開けるともう戸田が受付前の椅子に座って待っていた。 やはりピリピリとした空気を感じる。 とりあえず案内された個室に入って、ソファに座る。 「戸田、なんでわざわざこんな所来たんだよ?」 まさか俺に嘘まで付かせて本当に歌うわけじゃないよな? 「もう幸ちゃんがバカ過ぎて美術の時間じゃどうにもできないと思ったからだよ」 バカ… 「さっきの話を整理するとさ、幸ちゃんは蒼井君が幸ちゃんに譲渡して進路を選択したのが悩みってことでしょ? ついでに自分が自立できてないことにも自己嫌悪してる」 いつもの間延びした様な話し方ではないから調子が狂うな 「そうだと思う」 「まず確認したいんだけど、幸ちゃんて元々ゲイなの?」 「違うよ。春に先輩に告白された時も付き合いたいと思ったし」 話しながら久しぶりに先輩のことを思い出して、やっぱりきれいな人だったなって思う。 「え、何それ?聞いてない。その話まず聞かせて」 俺はその時のことを話した。 そのことで藍斗を怒らせてしまったことも。 話を聞いてるうちに戸田の表情がまた険しくなって、自分の頭をわしゃわしゃし出した。 「戸田?」 「ああーーーもう、天然なのかな!?俺の方が頭が痛いよ。どうしてわからないの!?」 また戸田が叫びだす。 今日の戸田の情緒はどうなってるんだ? 叫んで少しすっきりしたのか戸田が俺の方に体を向けて早口で話し出した。 「まずはややこしくなるから蒼井君を片付けちゃうよ! 元々あいつが幸ちゃんのことが好きで、勉強を理由に毎日家に連れ込んで、進路も勝手に決めて、ストレートの幸ちゃんを恋人にしてセックスまでしてるんだから、全部あいつの希望通りになってるの!わかる!?」 藍斗がすごい言われようだけど、俺は戸田の勢いに押されて頷いた。 戸田はだから俺が藍斗に申し訳なく思うことなんて何一つないと言う。 「ここからが問題だよ。もし幸ちゃんが蒼井君と出会ってなかったらどうなってたと思う?」 「…クラスに友達いなくて寂しかったかも」 「そんなの時間の問題だよ。俺たちだって結局仲良くなったじゃん。 ただ、友達って点でもあいつは影響してると思うけどね」 「どういうこと?」 「まず学校には定期的にイベントがあるし、いくら人見知りでも、根暗でもない幸ちゃんならもっとクラスに友達を作れてたってこと。ただ蒼井君は男女関係なく嫉妬するから、ずっとあいつとしか関われない状況を作られてる」
/51ページ

最初のコメントを投稿しよう!

598人が本棚に入れています
本棚に追加