個室②

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個室②

 戸田の早口は続いた 「次は先輩の話ね。それも蒼井君さえいなかったら付き合ってるよね」 それは俺もそう思う。 そこに藍斗がいたとしても、もし告白されたこと喜んでくれていたら違った結果だったろう。 「最後に大学のことだけど、確かにレベルが高くて行けたらすごいよ。でも元々幸ちゃんがそこに行きたかったわけじゃないよね? あいつが幸ちゃんの学校以外の時間と、高校を卒業してからの時間を独占する為の提案なんだよ」 一つ一つを解説していく戸田の話には、SFの映画ですべての秘密を主人公が暴いた時の様な説得力があった。 俺はソファに座って映画を眺めている。 正にそんな気分だ。 「…でも俺はいつも自分で選んだ。先輩を断ったのも、藍斗と付き合うのも」 「そう。そこが俺の言う幸ちゃんのバカな所だよ。 すぐにあいつを信用して、あいつが喜ぶ選択をし続けてる上に感謝までしてる。 それの全部が間違いとは言わないけど、ちゃんと客観的に今までの選択が自分の為かあいつの為かを考えてたって言える?」 「……」 「あいつと関わって人生がガラっと変わっちゃったのは、幸ちゃんの方なんだよ」 「……」 「……」 俺がだんまりしてしまったから戸田も一緒になって黙って部屋の中は静まり返った。 俺と藍斗が出会ってからの思い出に、戸田の話を落とし込んで考えてる。 でもどうも俺には戸田がいうほどの危機感が湧いてこなかった。 たとえすべて本当だとしても、藍斗の将来を心配してる時の方が、よっぽど落ち込んでいたと思う。 しばらく2人とも黙ってたけど、俺から口を開いた 「戸田…俺さ、藍斗にちゃんと恋したんだ」 「知ってるよ」 「うん。最初は勉強教えてくれるいい奴で、友達になって、恋をして、恋人になった。 それって普通の恋愛じゃない?」 「……」 「確かに俺が先輩と付き合わなかったのは藍斗のせいかもしれないけど、やっぱり俺が決めたんだよ。 藍斗は怒ってはいたけど俺に付き合うなとは言わなかったんだ」 「でもさ、あいつの愛は重いよ?」 「うん」 「これからも幸ちゃんのこと独占しようとするよ?」 「そうかも」 「友達も増えないよ?」 「でも戸田は友達になったじゃん」 「さっきの仕返しみたいだね」 仮にたくさん友達ができたって、直登と戸田ほどの濃度の付き合いはなかなかできないと思う。 「あいつ大学どころかその先も幸ちゃんから離れないかもよ?」 多分な。 この前藍斗と話した将来の話を戸田にしたら 「それ俺からしたらホラーだよ」 「俺は嬉しかったんだ」 戸田は「重症だね」とまた頭抱えて苦笑いしてる。 俺はその腕ごと戸田を抱きしめた。 「え?なに?」って珍しく戸田が動揺してる。 「いつも心配してくれて、ありがとな」 このありがとうには学校祭の時の分も込めて言ったつもりだ。 戸田はわざとらしくため息をついて 「まだ幸ちゃん次第ではあいつから逃してあげられるかと思ったけど、手遅れだったね」 と俺の背中を抱きしめ返した。 そうだな。 バカな俺は今も選択を誤ってるかもしれない。 もし藍斗がヤバい奴であっても、俺はもう藍斗の優しさ漬けになった重症患者で回復の見込みはきっとない。 でもそんな俺を藍斗が介抱し続けてくれるなら、それもいいかなって思ってしまうんだ。
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