思い出

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思い出

 あの戸田とのカラオケから二週間後くらいに修学旅行があった。 泊まったホテルはすべてに天然温泉大浴場が付いており、修学旅行は別名[北海道湯煙の旅]と生徒の間で呼ばれた。 藍斗は相変わらず「部屋のシャワーじゃダメか?」とか言ってくるのを押し切って大浴場へ行けば、さっさと俺を端っこの方へ追いやって壁の様に視界を遮り、ボディーガードばりに警戒し始める。 「そんなんしてたら藍斗の方が目立つよ」と笑えば 「こうでもしないと落ち着かない」 と依然ギラギラした目で周りを睨みつけてる。 「どっちにしたって落ち着けてないんだから温泉満喫しようぜ」 と無理矢理俺の隣へ座らせて、こっそり濁り湯の中で手を握った。 まだなんか言ってるけど大人しく俺の手を握り返してくる。 なんだか藍斗の扱いがわかってきた気がする。  小樽運河を散策する自由時間には、戸田はもう藍斗に睨まれようが何しようが 「俺は最低限の友達としての権利を行使する」 とか言って最低限どころじゃなく、るりちゃんとタッグで俺と藍斗に付き纏った。 藍斗が怒りそうになったら、俺が耳元で 「戸田を追い払うなら今日はあいつと風呂行く」 と囁く脅しも効果は絶大だ。 俺は藍斗の俺への甘さにつけ込んで最大限好き勝手することを覚えてしまったのだ。 途中直登たちのカップルも見つけて、みんなで寒空の中唇を青くしながら超絶に長く巻き上げられたソフトクリームを食べて、写真もたくさん撮った。 不可能と思われた藍斗と一緒に居ながら皆んなでわいわいすることができて、俺には楽しい旅行ができたんだ。 今日は旅行後すぐの休日で、俺が藍斗を甘やかす番だ。 修学旅行は平日だったから、別にいつもより間が空いたわけじゃないんだけど、我慢をし続けて疲弊した藍斗が家で俺のことを待っている。
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