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母
「他には何かあるかい?」
またうきうき俺の質問を待ってる。
憎めない父さんだな。
何を聞こうかと考えて閃いた。
「藍斗のお母さんてどんな人だったのか聞かせてもらえますか?」
お父さんがピタッと止まった。
まずい質問だっだろうか?
「いえ、もし辛い話だったら大丈夫です」
「すまない、感動してしまって…勘違いさせてしまったね。」
「感動ですか?」
「ああ。君が藍斗の母に関心を持ってくれたことを彼女が知ったら喜ぶだろうと思ってね。私も彼女の話ができるのは嬉しい」
そう言ってお父さんは急いで胸ポケットから皮のケースに入った写真を俺に差し出した。
「いつも胸にこれがないと私はダメなんだ」
写真の中の女性は、藍色の着物を着て椅子に座っている。
肌の白さが着物で強調されてすごく美人だ。
「藍斗に似てるだろう?」
「はい。綺麗な人ですね。」
顔のパーツ一つ一つもそうだし、凛とした雰囲気も藍斗と良く似てる。
「涼風と言う名前だ。私の通う大学の近くで日本舞踊を教えていてね。着物で歩く彼女に一目で恋に落ちてしまったよ。」
「どんな人なんですか?」
「うーん、一言で言うと気難しいかな。毎日彼女の元に通っても、笑顔を見るのに三か月かかった」
お父さんがんばったな…
「一度20歳で結婚したが、子供が出来づらい体だとわかると離婚されてしまったらしい。
私達が出会ったのは彼女が27歳で私が20歳の時だった。
まだ私が学生だった為に双方の親に反対されたが、彼女以外考えられないと押し切って大学の卒業と共に結婚した。」
「情熱的ですね」
「ははっ、私も藍斗のこと言えないな」
うん。お父さんと藍斗の共通点が見えてきた気がする
「子供はいなくてもと思っていたけど、それから7年して彼女が藍斗を授かった時の嬉しそうな顔を見て本当に幸せだと思ったよ。
しかし、彼女は藍斗を産んで1年も経たないうちに、信号無視の車にひかれて亡くなってしまった。」
お父さんは俺から藍斗のお母さんの写真を受け取り、辛そうな顔でそれを見つめた。
「再婚を周りからは進められたよ。私はまだ28歳そこらだったし、何より藍斗の為にそうした方がいいと。
でも到底無理だった。彼女はずっと私の中心なんだ。」
前に戸田が恋をしてる目は見たらわかると言っていた気がするけど、それはきっとこんな瞳なのかと思った。
こちらまで胸が痛くなるほど相手を求める瞳。
お父さんは今もお母さんに恋をしているんだ。
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