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晩御飯
今日も俺は藍斗の家に上がり込んでいた。
しっかりスウェット上下を着て部屋のソファでゴロゴロしている。
でもさっきまでちゃんと2時間は勉強した。
藍斗の教え方はとても丁寧で、先週のテストで俺は高校生になって初めて数学で平均点をとることができた。
数学教員の小坂に「おぉー幸太郎、やっと俺の授業でやる気になったのか!」と褒められたが決して小坂のお陰じゃない。
平均で褒められる程俺の成績はいつも危うかったのだ。
しかも藍斗は「人に教える方が俺の頭にも残りやすいから」と全教科面倒みてくれるとも言う。
流石にしてもらってばかりは悪い気がして、いつも用意してくれる飲み物やらお菓子は俺が買いたいと言ったが拒否された。
一緒に勉強する事自体が楽しいからいいんだと。
しかも俺はテーブルに乗り切らないくらいお菓子を大量に買いそうだからダメらしい。
そんなに買い物できる小遣いはないけどな。
まぁ最初は張り切っていっぱい買っちゃうかも。
他に自分ができそうな事を思案していたら、俺を見ていた藍斗が考える素振りをした後、出した提案は「それじゃあ、これからはたまに晩御飯も一緒に食べて行ってくれよ」だった。
それからの今。
俺の家には電話でご飯はいらないと伝えた。
うちは厳しい家ではないから余裕でOKが出た。
藍斗はキッチンで料理作ってる。
俺が作ると言ったけど今日は藍斗が作りたいらしく、次回が俺の番で交代で作ることになった。
藍斗は大人っぽいし1人でなんでもできる奴だけど、やっぱり寂しいんじゃないかと思う。
俺が藍斗の家に来る様になって、一度も父親が帰ってきていたことはない。
より藍斗の時間を浸食してしまう事になったけど藍斗の望みだし、あいつの寂しさが少しでも紛れてくれると良いと思った。
「んん…」
あれ、電気付いてる?
いつの間にか寝てしまったみたいだ。
毛布までかけてある。
「よく寝てたな」
声が聞こえて周りを見たら藍斗がテーブルに方杖ついてこちらを見て微笑んでいた。
「うわっごめん!俺どのくらい寝てたんだろ。てゆーか起こせよ!」
慌てたり怒ったりする俺に藍斗は声を出して笑いながら
「落ち着け、落ち着け」ってなだめてくる。
「居心地良すぎんだよ、ここ」
目を擦っていたら、ソファが揺れて隣に藍斗が来たのがわかった。
俺が見るのと同時に藍斗の手が頬伸びてきた
「じゃあこのままずっといてもいいんだぞ」
藍斗が至近距離で言ってきた。
いつもとは違う低く変に甘い響きのある声で。
口元は笑ってるのに強い目線なのがあんまりにもカッコよくて、俺の心臓はドックン!って全身に一気に血液を流す勢いで跳ねた。
顔が真っ赤になっているであろう俺は恥ずかしくて
「こぉーのぉーイケメンやろぉーっ!!」って藍斗のことをパコパコ叩く。
「悪い悪い、ほらもう食うぞ」
サッと毛布で包まれて両手を拘束されたまま、藍斗に押されてリビングに向かう。
俺はまだ毛布の中でゴニョゴニョ文句を言ってたけど、顔を隠せてよかった。
いくら男前とはいえ男にこんなにドキドキさせられてしまったなんて変に思われる。
ダイニングテーブルにはもうご飯が用意されていて、それはもう見た目も味も申し分ない料理だった。
少し冷めていた様だったけど、藍斗は俺が起きるまでどのくらいああしていたのだろう。
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