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俺?
放課後。
藍斗と階段を降りている時、上から女の人の声に呼び止められた。
俺と藍斗は同時に見上げると知らない女子が立っている。
2年生なら見たことくらいあるはずだし、制服の着方がこなれていてきっと3年生なんだと思う。
うちの学校は校則が中々厳しいから制服の着崩しができない。
俺も1年の時はシャツの裾が出てるとかでよく叱られた。
きちんと着なきゃいけないから尚更藍斗みたいな正統派イケメンに目がいくのだ。
ただ3年は高校生最後だからって校則のギリギリでおしゃれする女子は多いし、先生も少しなら目をつむる様だ。
猫目できれいな人だなって思ったけど、多分藍斗が目的だろう。
藍斗は学年問わずモテる。
「俺は先言ってるな。」って、階段を降り始めたら
「待って、高橋 幸太郎君。君に用があるの」と彼女は言った。
え、俺なの?
ちょっとここは目立つからって先輩は俺の腕をぐいっと掴んで引いていく。
藍斗は険しい顔で立ち尽くしてる。
突然のことに俺は「あ、あいと!あの、その、じゃな」と引かれて無い方の手を振って、早足な彼女に付いて行った。
実験室に誰もいないのを確認して、俺たちは中に入る。
部屋の真ん中くらいまで来て、先輩はくるんとこちらを向いた。
「私、斎藤 綾香!幸太郎君は私のこと知らないと思うけど、ずっと気になってたの。もし今彼女がいないなら付き合ってもらえませんか?」
先輩は緊張してるのか早口で顔も少し赤くなっている様だった。
でも俺は緊張どころかもうパニックで
「あ、あの…」
から先の言葉が中々出てこない。
そもそも何を言えば良いのか頭が全然働かない。
黙ってしまった俺に先輩は
「びっくりさせちゃったよね?返事は今すぐじゃなくても良いからここに連絡下さい。」
とピンク色にウサギ柄のメモを渡された。
早足の先輩が実験室からでて、スライドドアがズズって閉まる音を聞くと、やっと俺はまともに呼吸ができたと思う。
思考が周り始めたのと同時に、嬉しさがどんどん込み上げた。
俺なんかがまさかの先輩と付き合っちゃうの!?え、しかも可愛い!!ぇえー先輩いつ俺の事知ったんだろう。
直登は先越されたって悔しがりそうだ!
実は俺は過去2回告白されたことがある。
初めては小学生4年生の時。
仲の良かった女の子で付き合うってなったけど、それから急に恥ずかしくて俺が避けてしまって、その子はよく怒ってくるようになった。
1ヶ月くらい付き合っていたと思うけど、険悪な感じで終わった。
中学2年の時には隣のクラスの子に告白された。
いつも大きな声で騒ぐかなり苦手なタイプの子だったからその場で断った。
でも今回は上手くいきそうな気がする。
なんとなく俺は今意識し始めた先輩に好印象を抱いてた。
でもそれって、もうそれで断る理由はないんじゃないかと思う。
手を繋いで歩いたり待ち合わせしたり…うん、先輩いい感じ!
いろいろこれからのことを想像していたら、靴箱にもたれて立つ藍斗が目に入った。
腕を組んで険しい顔をしている。
「藍斗?もしかして待っててくれたの?」
「…あぁ」
横目で俺を見て、すぐ目をそらして自分の靴をしまい始めた。
相当機嫌が悪い。
今日俺はこいつの家に行く約束はしていない。そして俺たちの家は方向が違うから、学校から5分も歩けばすぐに分れることになる。だから当然藍斗はもう帰っていると思っていた。
待ちくたびれて怒ってしまったのだろうか。
とりあえず待っていてくれた藍斗の横顔に「待っててくれてありがとう」と伝えた。
無言の藍斗の少し後ろを俺は歩いた。
いつもは隣を歩くけれど、今藍斗の顔を見るのはなんだか怖い。
「じゃあ、また明日な。」
って俺が分岐で言うと、突然藍斗が真っ直ぐ俺を見てきた。
ちゃんと目を合わせてくれたけど、張り詰めた空気に緊張感が走る。
「付き合うのか?」
「へ?」
「告白されたんだろ?」
見つめられるとなんだか上手く話せない。
藍斗の右手は俺の手首をギュッと握っていて、その力からも真剣さが伝わってくる。
「…まだ、返事してない」
「どうするんだ」
「考えてる。全然先輩のこと知らないし…」
藍斗の圧に俺の口はさっきの思考とは反対のネガティヴな言葉を言っていた。
もし直登といたとしたら、先輩のことやバカな付き合ってからの妄想話とかを楽しくできたかもしれない。
でも藍斗に今そんな話をしてしまったら、俺は本当に嫌われてしまうんじゃないかと感じていた。
「そうか。」と言って藍斗は俺の手首を離して歩き出した。
取り残された俺は自分が悪いことをしてしまった様な変な気持ちだ。
その日は先輩の連絡先を登録はしても、連絡はできなかった。
先輩を思い出すと心がふわっとするけど、藍斗のことをその度考えてしまって今日は答えを出せる気がしない。
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