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斧で木を切る木こりを続けると誓い合ったという友達のことだ。なんて友人思いなのだろう。
「うん。いいわよ。でも、大切に扱ってね」
「わかってるよ」
彼は二本の斧を担ぎ、足早に去っていった。
来ない。
あれからシンジは姿を見せない。
どういうことだろう。仕事が忙しいのだろうか。それとも彼の身になにかあったのだろうか。不安な気持ちは日に日に大きくなる。
たまりかねて森の動物たちにお願いした。彼の消息を探ってほしいと。
一日も待たずに答えはやってきた。一羽の鳩が私の肩にとまり、話してくれた。
シンジには彼女がいること。木こりを辞めてその女と店を始めようとしていること。そして、店の開店資金には私が貸した金の斧と銀の斧を売ったお金を充てようとしていること。
俄かには信じられなかった。でも、森の動物が嘘をつくはずがないし、その必要もないのだ。
目の前が真っ暗になった。全身の力が抜け、私の体はゆっくりと池の底へと沈んでいった。薄暗い水底で、ひたすら考える。あいつは私を裏切った。私の愛を踏み躙った。そして、私の若さを奪った。
許せない。罰を与えなければこの心は静まらない。どうしてやろう。あいつを、どうしてやろうか。
ふと目に付いたのは、池の底に刺さった錆びた一本の斧だった。大昔に、誰かが落としていったものだ。
私はそれを手に取った。
そうだ。これであいつを……。
女神が穢れると、池も汚れるのだろうか。
あれから私が住まう池は澱み、悪臭を放つようになった。もはや池というよりも沼だ。
その中で私は、ただ老いるのを待つだけ。
どぼんという音がして、水面から一本の斧が落ちてきた。
どうやらまた、木こりが斧を落としたようだ。
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