【 第六話: 誕生 】

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【 第六話: 誕生 】

 それから、タマラは本当にワシに尽くしてくれたんじゃ。  ワシは、いつの間にか、そんな献身的なタマラに恋をしておった。  タマラも、ワシのことを好きになり始めていたと思う。  数日後、ワシは何とか歩けるまでに回復しておった。  あの不思議な塗り薬と葉っぱ、そして、タマラの献身的な介護によって、ワシの容態は見る見る良くなっていったのじゃ。  タマラの家は、貧しかったが、ワシも何かこの家族に恩返しがしたかった。  ワシはそこで日本で学んだ農業をしようと土地を開拓し、農地を整えた。  そして、そこで色々な野菜やお米などを育て、それを売って収入を得られるようになったのじゃ。  すると、タマラ一家も徐々に貧困から抜け出していったのじゃ。  そして、いつしか日本では終戦を迎えておった。  ワシは、助けてくれたタマラたちを見捨てて、祖国日本へ帰るなんてことは出来なかった。  ワシは、ここでタマラ家族を支えていく決心をしたのじゃ。  タマラは、年齢を重ね、とても魅力的な女性に成長しておった。  ワシは、そんなタマラを愛してしまったんじゃ。 「タマラ……、ユー、グッペラメリー。ミー、ライキム、ユー。(タマラ、君はとても素敵な女性だ。私は君を愛している)」 「オオ……、トオル。テンキュー、トゥルー。ミー、ライキム、ユー。(ああ、トオル。ありがとう。私もあなたを愛してる)」 「タマラ、ユー、タソール……。(タマラ、君だけだよ)」  タマラは、ワシの胸で泣いていた……。  そんなタマラを、ワシは強く抱きしめて、この女性を絶対に幸せにすると神に誓ったんじゃ。  そして、ワシは、その後タマラと結婚をした。  ワシは、今まで以上に働き、タマラ一家の大黒柱として一生懸命に彼らに尽くした。  ワシの中で、どうしても恩返しをする必要があったのじゃ。  それから1年後、タマラとの間に、子供ができた。  日本人のワシと、現地のタマラとの混血じゃ。  でも、目に入れても痛くないくらい、本当にかわいらしい男の子が生まれたのじゃ。  ワシは、あの墜落した『零戦』を見つけ出し、本島のポートモレスビーへ運び、そこのとある建物に『零戦』を展示した。  もう飛ぶことは出来なかったが、修理できるところはして、何とか動かすことはできた。 『ブルルルルン……、プルプルプルプルプルプルプルプル……』 「オオーーッ!」 「よし! 動いたぞ!」  その『零戦』の雄姿は、今でも忘れない……。
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