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「レオのやつ、病み上がりを容赦なく殴るんだもんなぁ」
しかもやり方が卑怯だ。
過去の黒歴史を掘り返して隙を作るとか、なんて非道なことをするのか。
医務室にてフィリスの治療を受けていたシオンは、先刻の立ち合いを思い出してプンスカ腹を立てていた。
それに苦笑するフィリスは、シオンの鼻先を消毒する。
「でも、本当にいいんですか?このくらいの傷なら治癒魔法ですぐに治せますよ?」
「いいんですいいんですっ。わざわざ魔法を使わせるなんてもったいないですから」
医者見習い故か、はたまたこれまでの貧乏生活の名残りなのか、「こんなの唾つけとけば治りますし、治療してもらうのも申し訳ないくらいですよ」と意外に男前なところのあるシオン。
ずっと一人で旅をしていたと言うだけあり、流石のタフさである。
「ほんと、負けず嫌いなとこは変わってないんだから。昔なんて、ご飯を食べるスピードとか、どれだけ長くお湯に使っていられるかとかまで競ってきたんですよっ」
一度でも何かで負けようものなら、それは機嫌を悪くしたものだ。
あのプライドの高さといったら村一番だった。
まぁそれが彼の強さの1つでもあるのだろうけれど。
そうしてかつてのエピソードを語るシオンを眺めていたフィリスは、次には口元に笑みを浮かべた。
そんな副団長に、シオンはパチパチと瞬きを繰り返す。
「ど、どうしたんですか…?」
「いえ、なんというか、まるで兄弟のように育ったのだなぁと思って」
「きょう、だい…?」
そんなことを言われたのは初めてで、シオンはきょとんとしてしまう。
レオと自分が兄弟。
そんなこと、考えたこともなかった。
次には記憶を辿るように睫毛を伏せると、シオンは淡い微笑みを浮かべる。
「……確かに、それに近いかもです。昔の僕は、いつもレオのうしろを引っ付いて回って、あの背中を追いかけることに必死でした」
「ふふ。なら、弟はシオンさんの方ですね」
そう言って笑うフィリスに、シオンは苦笑いを浮かべる。
今となっては少し悔しいが、実際僕はレオに憧れていたし、いつもレオは僕の前を歩いていた。
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