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「シオン、お前を俺の派閥に入れてやる」
「派閥って…」
彼の言う『派閥』が何を示すのかは、この世界で生きるものなら共通の認識があった。
『派閥』とは、この世界に数多存在する組織のことだ。
派閥ごとに活動内容は異なるが、その中でも勢力を拡大し名を広めている派閥は、イコール世界的にも権力を有すると言っても過言ではない。
そんな派閥に、レオが…?
というか“俺の”派閥ってことは…つまり…。
そこまで思考を巡らせたところで、シオンは我に返った。
こんなことを考えている場合じゃない。
僕は、すぐにでもここから逃げなくちゃ駄目なんだ。
「…悪いけど、僕はどこの派閥にも入るつもりはないんだ。用事があるから、もう失礼させてもらうよ」
用事など何もないけれど、必死に気丈に振る舞い、そっけない態度をとる。
自分たちは、もうかつてのようには戻れないのだ。
僕と君は、今は赤の他人で、関わることのなどあってはならない。
彼に背を向け、動揺を悟られないように歩き出す。
君への情など、既に微塵もないのだと思ってもらうために。
「俺はお前を誘ったつもりなんてねぇぞ」
「え?」
聞こえた声に咄嗟に後ろを振り返ってしまったシオンは、すぐ目の前に接近していたレオの存在に瞠目する。
その琥珀色の双眸に、酷く胸が締め付けられた。
いや、違う。
今はそんな感傷に浸っている場合じゃない…。
「言っておくが、これは誘いではなく命令だ」
あぁ、そうだ。すっかり忘れていた。
レオという人間は、根っからのオレ様気質であったことを……。
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