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目覚めると目の前には、見覚えのない天井が広がっていた。
あれからの記憶は朧げだ。
気付けば鳩尾に彼の拳がめり込んでいて、気付けば意識を失っていて、気付けば知らない場所のベッドで横になっている。
部屋は居心地が悪くなるほど広く、家具類は田舎者の僕でも高価な物であることが分かる。
まさに貧乏人の自分には無縁の空間だ。
いつもは起きてから完全に目覚めるのに時間がかかるのだけれど、流石にこの状態ではすぐに意識は覚醒した。
あの流れからして、僕をここに連れてきたのはやはりレオなのだろうか。
つまりここはレオの部屋…?
派閥がどうとか言っていたし、その本拠地なのかもしれない。
そんなことを考えていれば、部屋の外から石畳の上を歩いてくる音が聞こえた。
近付いてくる足音に身構えていれば、やがて部屋の扉が開き、琥珀色の双眸が此方に向けられる。
シオンは額に汗を滲ませ、厳しい表情でレオを見つめた。
そして僅かに掠れた声で、彼に告げる。
「これ、立派な誘拐だよね…?」
「──風呂」
「は…っ?」
一言「風呂」とだけ言ったレオは、次にはズカズカ此方へ歩み寄ってくると、軽々と僕を肩に担ぎ上げた。
一連の動きに驚いて固まってしまったが、次には慌ててバタバタと暴れる。
しかしそんな僕の抵抗を、まるで駄々を捏ねる子供をいなすかのようにもろともしないレオ。
それが頭にきて、彼の背中をバシバシ叩くが、憎たらしいほど鍛えられた逞しい背中には、大したダメージを与えられていないようだった。
いや、本気で肘打ちでも背骨に叩き込めば効果はあるだろう。
しかしそこまで彼にできるほど、中途半端な僕は無情になりきれない。
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