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気付けば息絶えていた獣の近くで倒れ伏すレオ。
その抉られた背中から、赤が広がっていく。
これまで生きてきた中で、あれほどの恐怖を感じたことは後にも先にもありはしない。
レオを背負い、溢れ出る涙も無視して無我夢中で村へと引き返した。
レオはすぐに村の医者の元へ連れて行かれ、僕は村のみんなから酷く罵られた。
しかしそれよりも僕の頭の中はレオのことでいっぱいで、夜眠ることもなく医者の家の前に留まり続けた。
レオが一命を取り留めたと耳にした時は、その場に崩れ落ちてしまった。
そして地面に蹲って泣きじゃくった。
心の底から神様に感謝した。
生きている。
レオが生きている。
今すぐにでも会いに行きたくて立ち上がりかけた時、不意に僕は、老婆の言葉を思い出して固まった。
『お前はお前の大切な存在を不幸にする』
「……あ、あぁぁ…っ」
だめだ。もう、だめだ。
離れないと。
僕はここにいてはいけない。
そうじゃないと、レオが不幸になる。
僕は逃げるように村を飛び出していた。
頭の中を占めるのは「離れなければ」ということばかりで、ただただ我武者羅に森を走った。
『お前はお前の大切な存在を不幸にする』
あぁ、その通りだ。
僕は自分の肉親どころか、唯一の友さえも傷付けた。
レオ、ごめんなさい。
君にありがとうを言えずに姿を消すことになってしまって。
でも、僕には君の側にいる資格はないから。
君の姿を見てしまったら、きっとこの覚悟が鈍ってしまうから。
だから、ごめんなさい。
──さよなら。
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