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掠れた声はごく小さなものだったが、相手の耳はしっかりと聞き取っていたようだ。
その眠たげに見える双眸でシオンを見下ろしながら、うっすらと口元に笑みを浮かべる。
「また会えましたね、アーネットさん」
「パウエル、くん…?」
何故【レグルス】の彼がこんな所に…。
【レグルス】の本拠が何処にあるのかは知らないが、少なくともこの辺りではないはずだ。
そもそもこんな都心からも離れた場所に【黒の獅子】以外の派閥がいるなんて聞いたこともない。
『あなたとは、また会うことになるでしょうから』
そう言ったパウエルくんの言葉を思い出して、僕はハッとした。
軽い身のこなしで地面に着地した彼を見つめて、呟きを漏らす。
「僕を、探してたの…?」
初めから、僕に会いにくるつもりだったのだろうか。
でも、何のために?
ただでさえ【黒の獅子】と【レグルス】は派閥間での関係性はよろしくない。
そんな相手方の領地に近付くことは危険を伴う行為だ。
そこまでして、僕に会う目的は一体──。
「よく、見つけられたね…」
「猫の獣人は、夜目が効くんですよ。夜行性なので」
「それで、僕に何の用?」
少し聞き方がキツくなってしまうが、今は仕方がない。
風が吹き、木々がざわざわと揺れる。
妙にひんやりとした空気が頬を撫でた。
その場の異様な空気感を、僕にひしひしと伝えてくる。
ここは逃げるべきではないかと僅かに片足を後ろに下げた時、背後からまた新たな声がかけられた。
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