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「ほんじゃ、俺はまた田舎に戻るわ」
そう言って皮トランクを肩に担いだエヴァンは告げた。
頭上でサンの鳴く声がする。
見送りに来ていたシオンは悲しさを覚えながらも笑みを浮かべて頷いた。
ここ最近は【レグルス】との騒動もあったことから派閥内は慌しく、レオたちも今は仕事中だ。
師匠自身も「勝手に出向いただけだから、見送りなんていらない」と断っていた。
今生の別れというわけでもない。
会おうと思えば会えるのだ。
そう分かっていても、やはり込み上げてくるものはあった。
「僕、今まで師匠にたくさん迷惑をかけましたよね」
「なんだ改まって。いいのさ、そんなのは俺の自己満足だ」
そう言ってクシャクシャと頭を撫でられる。
エヴァンは短くなった赤髪に一瞬目を細め、次にはシオンの名を呼んだ。
「お前は、幸せになれよ」
「えっ」
それだけを言い、師匠は歩き出す。
小さくなっていく背中に、シオンは目頭が熱くなっていくのを感じながらも叫んだ。
「今まで、ありがとうございました!!」
心からの感謝を伝える。
師匠は振り向くことはなく、無言で手を上げ振ってみせた。
***
師匠を見送り、本拠の廊下を歩いていれば、前方に人の気配を感じた。
俯いていた顔を上げると、そこにはレオが立っていた。
少しの間無言で見つめ合い、次にはレオが顎をしゃくる。
そのまま歩き出したレオに僕は我に返ると、促されるまま彼の隣に並んだ。
「エヴァンはもう行ったか」
「うん。あ、そういえばワイン、礼を言ってたよ」
「あれくらい何でもねぇ。エヴァンには、俺も世話になったからな」
「え?」
何のことかとレオを見るが、彼は何も言わずにただ笑みを浮かべていた。
なんだろう。すごい気になる。
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