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その中でもこのシャロームの国は、様々な人種の人々が共存し、平和に暮らしていた。
日が暮れ始めた街に、少しずつ明かりが灯っていく。
徐々に夜の街へと姿を変え、昼間とはまた違う賑わいを見せ始める街には、種族もバラバラな住民や旅人たちが行き交っていく。
その中を、1人のヒューマンの少年が覚束無い足取りでフラフラと歩いていた。
小柄な少年は、大きなショルダーバッグや履き古した靴などからして、旅人であることが窺える。
白く透き通るような肌や長い睫毛は、一見少女と見間違うような中性的な印象を抱かせる。
そして何より目を引くのは、彼の真紅の髪の毛だった。
長く艶のある美しいその髪に、道行く人は無意識に目がいってしまう。
肩甲骨ほどまである髪はひとつに縛られ、少年が歩くたびにサラサラと高級な絹の如く滑らかに揺れていた。
少年の名はシオン・アーネット。
歳は18と若く、旅人兼医者見習いである。
数ヶ月前までは彼の親代わりである人物のもとで医術を学んでいたが、今はその師匠の命令で様々な所へ薬や医療具などの配達をしていた。
今はあらかた配達が終わり、今夜の宿屋を探そうとこの街に訪れたところである。
「あー…お腹すいたぁ…」
そう言ってさするお腹からは、先程から何度もグーグーと音が鳴っていた。
フラフラと足取りが覚束無いのも空腹からくるものである。
「食べ物…食べ物…。……あっ!」
道すがらまったく食事を取る場所がなく、ほぼ餓死寸前のシオンは視界に入った酒場に目を輝かせた。
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