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「っ、何故こんな場所に子供が…!」
「え、あ、あの…」
「ここにいてはいけない。今すぐ大通りまで走りなさい!」
切羽詰まったようにそう告げられたシオンは呆気に取られる。
しかし次には、エルフの青年の腕に目が止まり、反射的に身を乗り出していた。
「その腕…、怪我してるじゃないですかっ」
彼の二の腕には鋭いモノで切られたような傷があり、命に関わるものではないが出血もしている。
医者見習いとしてそれを見過ごすことはできず、今すぐに手当てをしようとショルダーバッグから医療具を取り出そうとした。
しかしその時感じた殺気に頭上を見る。
それとほぼ同時にシオンと青年に謎の影がかかった。
屋根の上から、黒の外套を身に纏った人物が飛び降りて来たのだ。
重力を感じさせない動きで地面に着地すると、即座に2人の元へと突っ込んでくる。
その手には、おそらくエルフの青年の傷を作ったであろう短剣が握られていた。
顔はフードを目深にかぶっているため、種族はおろか性別も特定できない。
しかしその身のこなしから、只者ではないことは窺えた。
その放つ殺気から察するに、相手は確実に此方を殺ろうとしている。
「君っ、早く此処から立ち去りなさい…!」
「嫌です」
「はっ?」
はっきりと断るシオンに、エルフの青年は面食らう。
逃げるどころかエルフの青年を庇うように前に立ち塞がったシオンは、軽く右足を引き、此方へ突っ込んでくる相手と向き合った。
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