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「なんで、君が…」
目の前には、もう会うことのないはずだった人がいた。
あの頃と変わらない、少し硬めの、亜麻色の髪。
以前は殆ど変わらなかったはずの背丈は、今では優に越されていて、すっかり逞しく成長している。
切れ長の双眸が此方を見据える。
その間シオンは、何かの力が働いたかのように少しも体を動かすことが出来ずにいた。
束の間の静寂の後、彼の口が開かれる。
「お前……シオン、か?」
かつてとは違う、声変わりを終えた男性の声音に、何故だか無性に泣きたくなった。
彼と離れてからの年月を突き付けられるようで、それでも一目見ただけであの頃に味わった様々な感情を思い出してしまう。
自分の中で、あの頃から止まっていた時間が動き出す音が聞こえた気がした。
「その髪、間違うわけねぇよな」
「……」
言葉を失う僕を見つめ、彼は口の端をつり上げる。
その笑みに含まれる感情を、僕は知る由もない。
現状を少しずつ理解してきた今、頭の中で自分の本能が警告し出す。
離れなければ。
彼の側にいてはいけない。
僕は彼と、──レオと、関わってはいけないんだ。
「おいシオン、俺と来い」
「……は?」
取り敢えずここから逃げ出すことしか頭になくなり、ジリ…と右足を後退させた時だった。
突然告げられた言葉に、一瞬頭の中が真っ白になる。
彼の浮かべる笑みは、小さな時には見たことのなかった、不敵なものだった。
「お前を、俺のものにしてやるよ」
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