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日が沈んで間もない駅前の商店街は学校帰りや仕事帰りのひと等、ひとがごった返している。皆、誰かと話したり、笑ったり、変わらない日常の中にいる。
その中を私だけが早足で進む。
急ぐほどパンプスのヒールが地面に叩き付けられてカツカツと盛大な音が鳴る。ああこれはヒールの底に傷が付くな。かぽかぽと踵が脱げそうになるし、まったく運動には向いてない。
「うっ…わ」
ほら、なんてことない段差に引っ掛かり、降りていた数段程の階段を転げ落ちそうになり一段飛ばして着地する。
危なかった…と肝を冷やしたのも束の間、辺りを見てざっと血が下がる心地になった。
----ひとが誰もいない。
「まじか…」
口から出た自分の声はごく軽いものだったが、手からはじわじわ体温が奪われて冷や汗が滲んできていた。
自分たちが住む世界には、ここじゃない世界がいくつもあって、その入口は存外なんてことのない場所にあったりする。タイミングや条件が重なると、スイッチが切り替わるように入口が現れるのだ。
今がまさにそうだった。
階段を飛ばしたのがまずかったらしい。
いつまでも棒立ちしているわけにもいかないと、歩きだそうとした瞬間、
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