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「あっ…」
唐突に視界がぶれた。
次に走ったのは膝の焼けるような痛みだ。
何かに脚を掴まれて引き倒された。
…何に?
はっと足元を見る。
ホームの向こう側に立っていたあの人影が私の足首を掴んでいた。
バサバサの長い髪の向こうから生気がない血走った目がこちらを見ている。
鋭く息を飲む。
冷静に、冷静に。
恐怖でパニックになるのだけは避けないと駄目だ。
「…はなして、離してよ」
つらい
くるしい
たすけて
どうして わたしだけ
無念や悔恨、悲嘆…色んなものがごちゃ混ぜになった想いが伝わってくる。きっと、この影ひとりぶんではないだろう。たくさんのみえないものがより集まっているように感じた。
「…私には何も出来ないんだよ」
呟いた途端、足首を掴む冷たい手に恐ろしい程の力が加わった。
ギリギリと握り締められる痛みに加え、先程とは異なり怒りの想いがぶつけられてきた。
つらい
くるしい
どうして わたしだけ
「ぅ、ぐ…」
頭に響く声に引っ張られるように、私自身の日々辛かったことや悲しかったことが頭に浮かぶ。
頭の痛みががんがんと強くなっていく。
ぐるぐる回る頭に憎悪に充ちた何重もの声が響く。
おまえもあじわえ
替われ替われ替われ----!
どうして…
また頭の中で影の声がした瞬間、
「どうしていつも私だけ!」
私は思い切り叫んでいた。影が驚いたように身を引く。それを逃さず勢いのまま掴まれた足首を振りほどく。
「いつもいつも、私が何したってんだ! 冗談じゃないわ!」
恥も外聞もなく脚をバタつかせて起き上がり、先にあった階段を一段飛ばして駆け上がった。
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