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道を行くひとたちが髪を振り乱しさながら山姥のように走る私を振り返っては不思議そうにしている。おい指を指すんじゃない。確かにさっき転ばされたからスーツ汚れてるけど、今はそれどころじゃない。
普段は思わないが、そのいかにも平和そうな顔が今は心底羨ましい。
だって彼らはみえてない。
みえてないから、追われないんだ。
ぐっと口を噛み締める。
清く正しく美しくとは言い難いが、お天道様に顔向け出来ないような生き方はしてこなかったはず。
なのにこの仕打ち。
「くっそー!」
不条理な不幸に見舞われた私は絶望どころか怒りに燃えていた。こうなりゃ何が何でも逃げおおせてやる。
息急き切らしながら大きな鳥居を潜る。
これならどうだ! と振り返り仰天する。
「うっそでしょ…!?」
あいつ、普通に鳥居くぐってきたんだけど!
鳥居だよ!?
清浄の象徴だったんだけど、違うの!?
万策尽きた。これ以上何処へ逃げればいいのかわからない。逃げながらならなおさらだ。
玉砂利に何度も脚を取られそうになりながら、境内を走る。
奥へ奥へと逃げ、朱塗りをされていない鳥居を潜る。
鳥居など意にも介さない様子でアイツは追ってくる。
ひゅうひゅうと喉が不吉に鳴る。肺が痛い。無理矢理前に押し出す足のつま先にはもう感覚がない。もう限界だ。
でも諦めるのは嫌だ。あれに捕まるのだけは!
神様、仏様、千手観音様!
もう…もう、この際誰でもいいから助けてくださいこのやろう!
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