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「いくらここがあんたのうちでも、今は理人に貸してんだろ。最低限のマナーってのはあるんじゃねえの」
困った……賭けてもいいけど、禅は絶対引かない。何を言われても。いわゆる常識的には螢が正しいのは火を見るより明らかだけど、そういうのは一切通用しない人だから。
でも、螢も生半可な根性をしてない。納得のいかないことは、絶対に頷いたりしないから──
「マナーなんか知らねぇな。理人がいいっつったんだから問題ねぇだろ?」
「理人がはねつけられねぇの分かってるからつけ込むんだろ。いい年して言われなきゃ分かんねぇのかよ」
「ハハハ まったく。困ったもんだよなぁ」
うわぁ……険悪。険悪という言葉がぴったりな雰囲気。もう俺が謝って済むなら謝って終わらせたい。
「理人。マジで引っ越せよ。こいつヤバいって」
「うーん……」
「おかしいって思わねえの?お前もコイツと同じ考え?」
「いや……螢が正しいと思うよ」
俺は螢の絶対的味方だけど、なんだろう……この状況ではそれをちゃんと示せないのがなんともしんどいね……
「理人~お前こんなケツの穴のちっちぇー男と付き合ってんの?大変だなぁ」
禅は火に油を注ぐの得意でね。ほんと、とことんはた迷惑な男。螢は自分への美学を持ってるから、禅のセリフは嫌なところに刺さったに違いなかった。納得さえいけばむしろ大らかなこの人に、ほんとひどいこと言うよね。
「螢はあんたが言うような人じゃないよ。もう黙ってよ。迷惑なのは間違いないんだから。螢が言ってることに全面賛成だからね」
俺が肩を持ったところで、螢は腹の虫が治まらないみたい。もうめちゃくちゃ怖い顔で今にも立ち上がって禅に掴みかかって行きそうになってる。
「ははっ ちょー怒ってる。こえぇなあ」
全く怖く無さそうなソレは、螢にとっては侮辱でしかない。俺はこれ以上禅に付き合わせるのは螢が可哀想で、「もうあっち行こ」と螢の手首を掴んで引っ張った。それなのに、禅は挑戦的な目つきをして「なんで怒るの?」と笑って言うから……ついに螢が立ち上がって「なんで、じゃねえよ!」と禅の方へ向かいかけた。
「こんな非常識で道理の分かってねぇやつに馬鹿にされたら、腹が立って当然だろ!!」
「別に馬鹿にしてねぇよ。むしろ俺が非常識で道理が分かってねえってのはその通りなんだろうなーと思うし。でもケツの穴がちっちぇーのはほんとだろ。お前らの寝室に割って入ったわけじゃなし。ここに俺がいるのがなんでそんなに困んの」
「同じ家の中にいるだけで嫌なんだよ!」
「お前がココにいんのって今夜だけだろ?一晩くらい我慢しろよ」
「あーもう!あんたが言うセリフじゃないでしょ!螢も相手にしないで。もう遅いし、寝ようよ」
埒が明かない言いあいに割って入ると、身を乗り出してた螢を押してなんとかふたりの間を離した。
まったく厄日だよ。近年まれにみる厄日……
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