あれから2年と8ヶ月

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そういうわけで、売れっ子になった真紘は超多忙。マジ、なかなか逢えなくて……でもさ。確かに寂しくはあるけど、俺には大学在学中に予備試験に合格したいっていう野望があって、バイトと勉強で空き時間が埋まってる状態だったから、それでも良かったんだ。 大学3年の今年、一応チャレンジしたけど合格ならず。まぁ超難関試験だからなめんなよって話。合格が難しいことは分かってたけど、色々敵を知る意味でも受けとこうかなってさ。 短答式と論文式の試験のうち短答式は突破してたから、全然歯が立たないってほどじゃない。でも短答式の合格率が全受験者のうちの20パーで論文式はその20パーのさらに20パーっていうね。ぎゅぎゅーっと狭くなってるとこに入り込まねぇと、卒業後の司法試験合格、就職先内定を勝ち取り、司法修習終了後晴れて弁護士として働く……って予定してる最短計画通りに行かなくなる。 時々ニュースになってる大学在学中に司法試験合格!とか、かっけぇなーと思うけど、実家の経済状況があんま良くなくて、奨学金とバイトでなんとかしなきゃいけねぇ身じゃあ勉強時間の確保に限界があった。 それを、真紘には言ってない。だって絶対なんとかしてくれようとするだろうから。 高校の時みたいに、一緒に住もうとか……生活費を稼がなくてよくて全部勉強時間に当てられたら、そりゃ楽だろうなって思うけど、なんかさ。真紘がすごくなってく分、自分がそんなんじゃカッコ悪い気がして……やっぱ自分の力でやり遂げることに意味があんじゃねえかなって思って、出来る範囲で全力投球することにした。 睡眠時間は相当影響受けてるけど、幸い体はちょー丈夫。カゼひとつひくことなくこれまでやって来れてる。 真紘とは喧嘩もしないし、あんまり逢えない分逢えたらラブラブだし、言うことなしの大学生ライフ。だろ? 真紘んちの呼び鈴を押して、ふかふかの絨毯敷きの内廊下でそわそわと待つ。各戸の前がライトアップされてんのも、玄関のドアがバカでかいのも、見慣れたとはいっても”非現実感”は否めない。 エントランスなんかちゃんとロビーがあって、きちんとした制服を着た常駐スタッフもいて、エレベーターはでかいし、パスコードを住人が入れてくれないと動かないし、やたらと防犯カメラが主張してくるし、これが”日常”って思える訳ない。 それでも── 「いらっしゃ~い!」 ロックが解除される音にはっとして、ゆっくり開いたドアから覗いた真紘がキラキラ笑った。 リアルに(まぶ)しい。 それはあちこちにある暖色のスポットライトだけのせいじゃなくて、スター街道を着実に歩いてる真紘から放たれる、静かな自信と目に見えない何かさえ味方につけてそうなオーラのせいだと思った。
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