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私はこの暗くて狭い墓穴のような場所で、いつもあなたの事を想ってる……。大して距離は離れてないはずだけど、あなたはずっと仕事で出ずっぱりだもの。 あの方は近頃、南欧がお好きみたいだから、あなたはほとんど毎日のように駆り出されてるわね。
正直言って……、あなたが羨ましいわ。私ももっと、あの方のお役に立ちたいもの。外に出て、あなたと一緒に仕事がしたい。……だって本来、あなたと私は、ふたりでひとつのコンビのはずでしょう? 物心付いた時から、私たち一緒だったんだから。
……けど、それも仕方ないわよね……。だってあなたはひとりでも活躍できるけど、私ったら、あなたがいなくちゃ何の役にも立たないもの……。あなたは誰かをすくう事もできるけど、私は誰かを、傷付ける事しかできないんだから……。あの方の一番のお気に入りの、あのふたり組とは、私たちは全然関係が違うのよ……。
あの方に意見するつもりはないわ。……けど、一つだけいい? あなた最近、あの丸っこいコと、よく組まされてるわよね? あの方は少し子供っぽい所があるから、そういう仕事のさせ方をするけど……、そういうのは本来、あなたひとりでやるべき仕事であって、本場イタリアの掟には反する事なのよ? それとも、あなたの方から望んでやってるのかしら?
……ごめん。ジェラシーなんて、みっともないわね。けど、あなたに会いたくて、つい……。ああ、私が最後に仕事をさせてもらったのはいつかしら? 三週間前? あのチキン野郎をやった時かしら……?
あっ! あの方がお帰りになったわ! 何か言ってるわ、鼻歌混じりに……。普段寡黙な、あの方が……。えっ……! ウソッ! ステキッ! ホントッ?
ああ、あなた! これで私、出してもらえるわッ! あなたに会える! あの方のために働ける! あなたと一緒に、仕事ができるわ!
さあ、いよいよね! 外だわッ! あの方も御機嫌ね♪ ああ、あなた! 久しぶり! 会いたかったわ! 今夜は私、思う存分働くから!
ステキ……! それじゃ、始めるわよ!
あなたが獲物を突き刺す! 私が獲物を切り裂く! あなたはあの方の元へ……!
あなたが獲物を突き刺す! 私が獲物を切り裂く! あなたはあの方の元へ……!
あの方も、随分私たちの扱いが上手くなったんじゃないかしら? ほとんど音も立てずに、あっという間に片が付いたわ。
ああ、あなた……! こっちへ来て! ふたりで仕事を終えて、あなたが私の所に寄り添いに来てくれる、この瞬間が、私好き。
……ねえ、でも今夜はあの方は、すぐにシャワー浴びさせてくれるかしら? この仕事をこなすと……、私は特にそうだけど、獲物の血や脂や、細かい肉片で汚れ切っちゃうもの……。
あっ。ああ良かった。今夜はすぐシャワーOKみたいね。一緒に浴びましょ? あら、丸っこいの、あなたもいたの。けどお生憎様。今夜のあなたは単独行動だったようね。フフン。
……ふう。さっぱりしたわ……! これであなたと、少なくとも明日までは、ここで一緒にいられるわね。立ちっぱなしっていうのがナンだけど……。しばらくの間、こうしてあなたに寄り掛かっていても、いいでしょう? ええっ? 嫌よ。丸いコは無視して!
けどそれが終わったら……、またしばらくの間、お別れね。私はそこの、暗いトコに押し込められちゃう……。
あーあ、あの方はもっと、私たちふたりが活躍できる仕事を選んでくれないかしら。……けど仕方ないか。そんなにいっつも、ガッツリお肉ばっかり食べてられないもんね。
けどまた何週間か後に、その時が来たら……。その時は、また私たちふたりの腕の見せ所よ?
ナイフとフォークの、とっておきのコンビネーションのねッ♪
それじゃあお休みなさい、愛しいフォーク……。
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